『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』を上梓した、アナリストの高辻成彦さんに聞く、ビジネスリサーチの基本とは? 連載2回目の今日は、ビジネスリサーチの切り口となる「4S」と、分析のコツを紹介します。

ビジネスリサーチの
とっかかりになる「4S」とは?

 みなさんは、「4S」をご存知でしょうか。
 ビジネスリサーチでは、4つの切り口から、情報をおさえるのが効率的です。
 この4つの切り口を4Sと呼びます。

 具体的には、「Structure(構造)」、「Statistics(統計)」、「Share(シェア)」、「Strategy(戦略)」の4つです。

 リサーチをするときは、やみくもに調査を開始するのではなく、4Sを満たすことを意識すると、バランスのよいリサーチになります。

Structure(構造)

 第1は、Structure(構造)です。構造とは、業界構造のことです。
 ある事業を調べるには、その業界の構造を把握する必要があります。

 たとえば、「製品やサービスの分類」、「用途別・地域別の分類」、「製品やサービスの製造・販売の流れ」、「規制動向」、「季節性」などです。

 業界によって、切り口は異なりますが、上に挙げた項目は調べておきたい基本項目です。

Statistics(統計)

 第2に、Statistics(統計)です。
 業界の市場規模を知るために、使える統計があるかどうかを調べます。

 たとえば、政府統計、業界団体統計、市場調査会社の統計、市場調査報告書、新聞情報などをあたります。

Share(シェア)

 第3に、Share(シェア)です。
 市場シェアを得られるかどうかを調べます。

 具体的には、市場調査会社、業界団体、事業会社のIR情報、新聞情報などをあたります。

Strategy(戦略)

 第4に、Strategy(戦略)です。
 これは、競合と比較するにあたって、競合それぞれに、どのような戦略的な特徴があるかを調べます。

 主な調査項目は、「製品やサービスの特徴」「用途別・地域別展開の特徴」「事業構造の特徴」「収益性の特徴」などです。

3つの視点から業界の切り口を考える

 それでは、集めた情報をもとに、業界の全体像を分類する手順を追ってみましょう。
 考えられる分け方としては、主に、次の3つがあります。

 1)用途別
 2)地域別
 3)製品・サービス別 
 

 製品やサービスの買い手である用途先の割合がわかれば、どの業界が最も影響を与えているのかを特定できます。

 たとえば、工作機械業界の場合、自動車業界が買い手(用途先)としては、最も大きなウェイトを占めています。

 特に、2008年のリーマンショック前までは、大きな割合を占めていましたが、リーマンショック直後の2009年は一時、急減し、その後は、徐々に拡大することで、再び、工作機械業界全体の中で、自動車業界が買い手(用途先)として大きな割合を占めています。

 このことから、工作機械業界は、自動車業界の設備投資動向次第で、業績が左右されやすいということがいえます。

 また、地域別での割合がわかれば、その業界が、どの地域の需要動向の影響を受けるかがわかります。

 たとえば、フォークリフト業界の場合、リーマンショック以降、アジア向けの変動が非常に大きくなっています。
 したがって、アジアの需要動向に、業界の業績が左右されることがわかります。

最も多い分類先が収益源とは限らない

 どの製品・サービスが、最も高い収益源になるかを特定することも重要です。

「最も大きい分類先=最も高い収益源」であることが多いのですが、必ずしもすべてがそうとは限りません。

 建設機械業界で考えてみましょう。
 建設機械業界は、16年度上期まで、前年割れの需要動向が続いていました。
 これは、中国の建設機械市場と、鉱山機械市場の需要減が影響してのことです。

 鉱山機械とは、鉱山で使われる大型の工作機械です。
 鉱山機械市場は、建設機械業界での売上高比率としては、2割程度しかないと言われています。
 それでも、建設機械業界の業績が落ち込んだ、ということは、鉱山機械の利益率は、建設機械業界の主要製品の中では、比較的高い、ということがいえます。

 このように、用途先、地域別、製品・サービス別での業界分類を試みることで、業績を左右するものを特定することが、業界構造を把握する上で重要なポイントになります。

 ビジネスリサーチでは、どれだけ定量的なデータが得られるが重要です。
 そのためには、今回、紹介した4Sをおさえることが近道ですが、効率よく分析するには、経済統計や経営戦略論、財務分析の基礎知識が、どうしても必要になります。

 『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』では、初歩的な部分ではありますが、それらの基礎知識についても解説しています。
 ご興味のある方は、参考にしていただければと思います。