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相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

市民が使えぬ広島市の矛盾した住民投票制度
東京の2020年五輪再挑戦は住民投票で

相川俊英 [ジャーナリスト]
【第29回】 2011年7月29日
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 原発是非を問うイタリアの国民投票にはとても及ばないが、日本でもことの結着を住民投票でつける事例が珍しいものではなくなった。

 重要なことは直接、自分たちに決めさせてくれという意識の高まりである。

 もっとも、日本では地方自治体レベルでの住民投票に留まっており、国民投票の実施事例(最高裁判事の国民審査を除く)はない。また、地方自治体での住民投票も首長や議員の解職、議会の解散を問うものや市町村合併に関するものがほとんどだ。記憶に新しいのが名古屋市や阿久根市の事例である。いずれも法定数以上の署名を集めれば、自動的に住民投票の扉が開く直接請求事案である。

 一方、個別の政策や事業の是非を問う住民投票の実施事例は、皆無に近い。直接請求の成立に必要とされる署名数(有権者の50分の1以上)は少ないものの、それはあくまでも第一ステップにすぎない。法定数をクリアしても、議会に住民投票実施のための条例制定などを求められるだけで、最終決定権は議会にある。議会が議案にノーと言えば、署名集めは水泡に帰すのである。そして、そうした結果に終わるケースがほとんどだ。民意は議会が代表している。住民に直接問うまでもない。議会の議決権を侵すものだ。こうした理屈が並べられ、個別課題の是非を問うための住民投票条例制定の直接請求はあっさり否決されてしまうのが、これまでの通例だ。

 しかし、議会や首長が常に民意を把握しているとは言い切れない。そして、住民は投票した議員や首長に全てを委ねた訳でもない。また、選挙後に地域課題として新たに浮上した問題もある。議会と首長の判断が食い違い、にっちもさっちもいかなくなるケースもある。代議制を補完し、住民がとことん納得するためのツールとして、住民投票を活用すべきとの声が広がっている。

 民意をより的確に行政運営に反映させることを主眼に、常設型の住民投票条例を制定する地方自治体が生まれている。一定の署名を集めれば、議会の議決なしで住民投票が実施される仕組みである。その先進自治体として識者などから高く評価されたのが、広島市だ。

 広島市は2003年に住民投票条例を制定した。経緯はこうだ。「市民の市民による市民のための市政」を掲げた秋葉忠利氏が99年、広島市長に就任した。秋葉氏は「情報公開と全市民参加が市政の基本」と訴え、住民投票制度の導入を選挙公約とした。一期目は制度の調査・研究にとどまり、条例制定にまで至らなかった。秋葉氏は03年の市長選でも住民投票制度の導入を公約に掲げ、再選を果たした。そして、満を持して条例案を議会に提出した。予想通り、議会側は諸手を挙げて賛成とはならなかった。さまざまな異論や疑問がぶつけられ、条例案の審議は難航した。それでも市長選での目玉公約とあって議会側もむげにはできず、修正をいくつも重ねた末に可決成立させた。

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相川俊英 [ジャーナリスト]

1956年群馬県生まれ。放送記者を経て、1992年にフリージャーナリストに。地方自治体の取材で全国を歩き回る。97年から『週刊ダイヤモンド』委嘱記者となり、99年からテレビの報道番組『サンデープロジェクト』の特集担当レポーター。主な著書に『長野オリンピック騒動記』など。


相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記

国政の混乱が極まるなか、事態打開の切り札として期待される「地方分権」。だが、肝心の地方自治の最前線は、ボイコット市長や勘違い知事の暴走、貴族化する議員など、お寒いエピソードのオンパレードだ。これでは地方発日本再生も夢のまた夢。ベテラン・ジャーナリストが警鐘を鳴らす!

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