「マニフェスト」で公約した政策の多くが実現しないことや、東日本大震災・原発事故対応の混乱によって、民主党政権の「政治主導」に対する批判が厳しさを増している。だが、これらの批判は、50年以上も自民党長期政権が続いたという、他の議会制民主主義国にない日本独特の状況を考慮していない。

自民党長期政権下における
「政官関係」の特殊性

 多くの人が考える政治家と官僚の関係(政官関係)の理想的なあり方は以下の通りだろう。政治家が国民の生活や国の重要な課題に対して、政策の大きな方向性を示す。一方、官僚は専門知識を駆使して緻密な情報収集・分析を行い、具体的な政策を立案して政治家に提示する。そして、政治家は総合的に判断して政策を決定する、というものだ。

 このような政官関係のあり方は、英国やドイツなど欧州の議会制民主主義国で一般的に見られるものだ。これらの国々では、一定の期間に政権交代が繰り返されるが、保守政党(英保守党や独CDUなど)と社会民主政党(英労働党や独SPDなど)という政策志向の異なる政党間で政権交代が起こっても、官僚はその時の与党の政策志向に合わせて柔軟に対応している。例えば、英国のキャメロン政権は、発足直後から大胆な財政再建策を打ち出したが、官僚組織をしっかり掌握できていた。

 それが可能なのは、官僚が与党政治家と接触する際、一定の距離感を保とうとしているからだ。なぜなら、官僚が与党と緊密な関係を持ちすぎると、政権交代が起こった時、新しい与党によって役職から追われる可能性がある。新しい与党の下でも、役職を維持していくには、常に与野党から中立なスタンスを保つ必要があるからだ。

 一方、日本の自民党長期政権下では、官僚は与党・自民党と一体化して政策立案を行ってきた。そこでは、次第に利益誘導を求める業界や学会が絡むようになった。自民党・官僚・業界・学会(政官業学)のネットワークは強固になり、既得権益が生じた。政策立案の目的は、社会の課題解決のためではなく、既得権を死守するためのものになった。経済・社会のグローバル化に対応する改革の試みは、政官業学のネットワークによってことごとく骨抜きにされ、日本は「失われた20年」に陥った。

 また、原発事故でその存在を知られるようになった政治家・経産省・電力会社・御用学者の「原子力村」も、このネットワークの1つである。これは、欧州の議会制民主主義国にはない、特殊なものである。