日本企業の成長を阻んだ3つの要因

編集部(以下太文字):山田さんのコンサルタントとしてのキャリアは、1992年の大学卒業後に入社したグローバルコンサルティングファームから始まりました。そのほとんどは、「失われた30年」と重なります。コンサルタントという立場から見て、長きにわたる日系企業の凋落の要因は何だったととらえていますか。

山田(以下略):いま振り返れば、日本企業の絶頂期は1990年前後でした。その後の日本は、けっして凋落したわけではなく、他国の急成長の中で存在感が相対的に低下していったといえるでしょう。

では、なぜ日本は世界から取り残されたのか。私はそこに「3つのボトルネック」があったと考えています。

1つ目は、「先端テクノロジーに対する目利き力」の欠如です。新しい技術のどの要素を取り込み、自社の変革と成長にどうつなげるのか。経営に関わる者がその見極めができずに決定的な後れを取ってしまった。
 
2つ目は、「バブル崩壊後のマインドセット」にあります。多くの企業は、本来取り組むべき構造改革よりも、コスト削減に代表される短期的なPL志向が優先されました。新規事業創出よりも既存事業の維持を、変革よりも安定を求めた結果、イノベーションを担う人材や変革を推進する組織文化が育たなかった。人材の流動性や多様性の活用も進まなかった。これらはいまなお、日本企業のダイナミックな成長を阻む構造的な制約として残存しています。

一方で、我々コンサルティング業界に目を向けるとどうでしょうか。コンサルティングファームが日本で注目され始めたのは、バブル崩壊後、経営再建を迫られた企業が相次いだ時期でした。守りの姿勢を取る顧客企業に対し、「真の変革」を促し、その実現に主体的に貢献できていたのか。自戒を込めて申し上げれば、必ずしも十分ではなかった。これが3つ目のボトルネックです。

私が入社した当時、どのファームも「クライアントファースト」を掲げ、変革パートナーとしての矜持をたしかに持っていたと記憶しています。

しかしバブル崩壊後、特に2000年代に入る頃から、その本質が徐々に揺らいでいったように感じます。「顧客のダイナミックな成長に資する変革とは何か」という根源的な問いを立てられないまま、対症療法的な支援に終始し、真の変革パートナーたりえなかったのではないか。そういう忸怩たる思いが私の中にはずっとありました。

企業が持つ価値は、必ずしも内側にいる人々だけで見通せるものではありません。自社の強みをどう未来につなぐのか、その答えを自前で導くことは容易ではない。だからこそ、多様で専門性の高い外部の知を取り入れ、対話を通じて答えを紡ぐことが不可欠です。私たちコンサルティングファームの使命は、そのプロセスを導く「変革の共創者」であることだと考えています。

アビームコンサルティングも日本発のコンサルティングファームとして1981年の創業以来、クライアントファーストを掲げてきました。しかし私自身、お客様の真の変革にどこまで貢献できてきたのかと、常に自問してきました。

だからこそ、私が社長としてバトンを受け継いだいま、あらためてクライアントファーストに立ち返ったのです。そして、顧客のダイナミックな成長に貢献する日本発・アジア発の「リアルパートナー」であり続けたいと強く思っています。

なぜ「現場」にコミットし続けるのか

2023年4月の社長就任以降、みずから現場に関わり続け、顧客企業との対話を重視されてきました。

ちなみに現場にこだわる経営として、海外ではHP(旧ヒューレット・パッカード)創業者による「歩き回る経営」があります。「歩き回る経営」とは、積極的に現場を歩き回ることで顧客のニーズを敏感に察知したり、自社の現状を把握したりすることを指します。また、日本では京セラ創業者の稲盛和夫氏によるフィロソフィ「現場主義に徹する」が知られています。現場は宝の山であることは多くの人が理解するところですが、多様なアジェンダを抱える経営者が現場にコミットし続けることはたやすくはありません。それでも、いまなお山田さんが現場にコミット続ける理由はどこにあるのでしょう。

社長に就任してからも、顧客企業のキーマンとの対話を欠かさないようにしています。社内からは「いつまで現場に出るのか」「そろそろ経営に専念してほしい」と言われることもあります(笑)。しかし、私は、「トップみずからが現場に立つことにこそ大きな価値がある」と考えています。

ここでいう「現場」は、顧客企業に限りません。我々と共創するビジネスパートナー、投資家や市場関係者、そしてIR担当者やメディアの方々との対話にも時間を割いています。多様なステークホルダーとの対話を通じて、顧客企業を取り巻く経営環境の「リアル」を肌で感じ取ることができる。だからこそ、私はいまもなお現場にコミットし続けています。

なかでも重視しているのは、CxOアジェンダと現場アジェンダの間にあるギャップです。現場で起きている変化や課題をていねいに読み取り、それをどのように分解し、具体的な施策に落とし込んでいくのか。あらゆる現場に足を運ぶことで、その構造や背景に潜む要因を把握し、その企業ならではの強みやボトルネックを浮き彫りにしていきます。そのうえで、真の変革に向けたシナリオやロードマップ、事業戦略やデジタル変革の方向性、全体最適と個別最適のバランスを当社のコンサルタントチームとともに描き、CxOに提案します。

そのプロセスで最も大切にしているのが、「共感」と「対等なパートナーシップ」です。顧客と業務委託者という関係ではなく、私自身も自社のアジェンダと向き合う経営者として、同じアジェンダを共有する相手と腹を割って話す。そこでは本音の議論が欠かせません。本質に迫る対話を通じて、戦略の解像度と精度を高めていくことができると確信しています。

その結果、顧客企業とは「同志」のような関係になることもあります。お互いの経営哲学や信条を語り合い、アビームがどのような思いで変革に取り組んでいるかを、誠実かつ真摯に伝える。そこにこそ、本当の変革パートナーシップが生まれます。

あらためて振り返ると、私が現場にこだわり続ける理由は、変革を阻む課題や変化の兆しを拾い上げるためだけではありません。むしろ、みずからアビーム自身の変革のエバンジェリスト(伝道師)であり続けるためです。私が先頭に立って当社のパーパスやプリンシプルを語り、その理念に共感するお客様とともに、ダイナミックな成長を実現するための戦略を描いていく。これこそが、アビームが掲げる「顧客中心主義経営」の真の姿だと考えています。

ちなみに「共感とは何か」とAIに尋ねると、「他人の感情や考えを理解し、それに寄り添い、あたかも自分自身のことのように感じ取る能力」という答えが返ってきました。これに異論はありません。単に相手の意見に賛成する「同感」とは異なり、相手の状況を深く理解する力が必要です。

こうした相手に思いを寄せる力はまさに、近年、教育現場でも注目を集める「非認知スキル」だといえます。これはIQや学力テストでは測れない能力を指しており、たとえば思いやり、協調性、自制心、やり遂げる力などが挙げられます。

劇作家・演出家であると同時に、芸術文化観光専門職大学の学長でもあり、文部科学省コミュニケーション教育推進会議の座長を務めた平田オリザ氏は、「相手の話す文脈を読み取り、優先順位を直感的に理解する能力は、多文化共生時代のリーダーシップに不可欠だ」と指摘しています。

その通りですね。よく「年上の経営者の方ともすぐに打ち解けますね」と言われます(笑)。経験豊かな方々に敬意を払いながらも、率直に本音を語り合える関係を築けるのは、共感を通じて信頼を醸成できているからかもしれません。コミュニケーションを重んじるコンサルタントとして、これは私の大きな強みだと感じています。

「共感」は、ますます複雑化し緊張感を帯びている現代社会において、正の循環をもたらす共通基盤となるかもしれません。ちなみにギリシャの哲学者アリストテレスは、社会全体に共通する普遍的な善や幸福のことを「共通善」と呼びました。一方で、人気番組『白熱教室』で知られるハーバード大学のマイケル・サンデル教授は、「そもそもコモングッドなどどこにもない。あるのはコミュニティグッドだけ」と言っていました。それを踏まえて一橋大学ビジネススクールの名和高司教授は、「シンパシーを感じる仲間が一つの集団をつくっていける『共感善』が重要になる」と指摘しています。

山田さんがおっしゃる「共感」も、同じ方向を目指す者に不可欠な共通基盤を意味すると思いますが、いかがでしょうか。

まさにご指摘の通りです。共感がもたらす力は計り知れません。アビームでは、みずからの経営哲学や信条、成長戦略を自分の言葉で語れる人材を増やしたいと考えています。そうすることで顧客との間に真の共感が生まれ、信頼と対話の好循環が生まれる。CxOアジェンダを対等な立場で議論し、ともに未来を描ける関係性が育まれていくのです。

変化する顧客企業からの期待

事業環境の不確実性が増し、コンサルティングファームに対する顧客企業からのニーズも、この数年で大きく変化していると思われます。山田社長は、みずから実践する「現場主義経営」を通じて、自分たちへの期待変化をどのように感じ取っているでしょうか。

コンサルタントに求められている本質的な役割は、昔もいまも変わりません。「CxOアジェンダのアドバイザー」であり、同時に「経営者のディスカッションパートナー」、そして「変革の実現までを伴走するパートナー」であること。総合コンサルティングファームの存在意義は、まさにそこにあります。経営者とともに未来のロードマップを描くには、経営の枠を超えた広い知見が必要です。議論はビジネスだけでなく、時に政治や社会、教育、テクノロジーにまで及びます。もちろん私自身、すべての領域に精通しているわけではありません。だからこそ、あらゆる分野にアンテナを張り、常に学び続ける姿勢が欠かせません。経営者の真のパートナーとなるには、深い探索と幅広い知への欲求、そして新たな知に向き合う謙虚さが不可欠だと考えています。

そのうえで、近年、顧客企業の期待がどのように変化しているか。一つ具体例を挙げるとすれば、「中期経営計画(中計)のテーマ設定」です。多くの企業が5年から10年単位の経営へと舵を切る一方で、不確実性の高い時代だからこそ、3年という短いスパンで何に取り組むのか、その解像度が求められています。検討すべきアジェンダは、事業成長戦略に加えて、AIネイティブ、サーキュラーエコノミー、サプライチェーン最適化、人的資本経営、コーポレートガバナンスなど多岐にわたり、その中から何を優先し、どこに経営資源を投下するかが将来の企業価値を左右します。

中計のテーマ設定とは、単なる経営計画の策定ではなく、企業の存在意義と未来像を社会に対して語る「価値創造ストーリー」づくりでもあるのです。それは中計に限らず、持続可能な経営にも通じる視点です。言い換えれば、「まだ見ぬ未来を構想する力」。そこにこそ、アビームコンサルティングの存在意義があります。顧客企業の未来をともに描き、その実現に必要な〝知〟を体系的に提供していくこと。それが「リアルパートナー」の使命であると考えています。

インドという新たなフロンティア

日本は世界の中で存在感を失い、「失われた30年」から決別したとはいえ、特にデジタルビジネスでは海外勢に主導権を握られ続ける厳しい状況にあります。日本発のコンサルティングファームとして、日本企業が再び世界で浮揚し起死回生を果たすには、どこに勝機があるとお考えですか。

私は、むしろいまの状況こそが、日本企業が進化するための絶好の転換点だと考えています。世界との差を嘆くのではなく、そのギャップを「変革の起点」としてとらえるべきです。単にデジタルで先行する海外勢に追随するのではなく、その先を見据えた「新たなフロンティア」を切り拓き、ダイナミックな成長へとつなげていくこと。それこそが次の時代の競争力につながる。その意味で私は「インド」という市場に大きな可能性を見ています。

日本が人口減少と国内市場の縮小に直面する一方で、インドは14億人を超える人口を擁し、平均年齢28歳と若年層が厚い。加えて、高度かつ最先端のテクノロジースキルを持つ人材が豊富であり、消費市場とものづくりの拠点として極めて魅力的です。インドのデジタルケイパビリティをどのように取り込み、日本の強みであるものづくりや品質、組織力と掛け合わせ、ダイナミックな成長へとつなげていくのか。まさにいま、それを本気で考える時が来ています。そこにこそ、日印双方の成長機会があると考えています。

一方、インドから見ても、日本は次代の戦略的パートナーとして重要な存在です。米欧中いずれとも異なる立ち位置から、信頼を基盤とした長期的な協調関係を築ける国、それが日本です。地政学的にも経済構造的にも、日印が手を携える意義は非常に大きい。アビームとしては、インドのデジタルケイパビリティを日本企業の変革と成長へと結び付け、新たな価値創出を牽引する「推進役」でありたいと考えています。

おっしゃる通り、インドを世界戦略の成長拠点と定め、大胆に投資する日本企業も増えています。その一つが、空調で世界ナンバーワンのダイキン工業です。同社はインドにおける2030年の空調機の市場規模が2020年の4倍になると予測し、世界で最も空調需要が拡大する市場であると見込んでいます。インド南部に新工場を建設するなど生産能力の大幅増強を図るとともに、インド西部に3拠点目となるR&Dセンターを開設しました。

これはインドだけでなく、その向こうにある中東やアフリカなどへの輸出拠点、すなわち「橋頭堡」となることを意味しています。インドを中国に次ぐ新たな成長フロンティアとして注目し、研究開発から生産までの一貫体制を構築することで、世界戦略の要と位置付けているのです。

日本のものづくりは、まだまだ世界で存在感を発揮できると考えています。当社のクライアントの中にも、インドに大きな可能性を見出し、積極的に投資して成果を上げている企業が少なくありません。今後は、さらにその動きが加速していくでしょう。

私たちとしても、これまで以上にインドで事業展開を進める日本企業との共創パートナーシップを強化し、その成長をともに支えていきたいと考えています。

貴社自身の海外展開に当たっては、それを託すことができる人材の育成が不可欠です。しかしながら近年、若年層の海外離れが進み、就活生の6割以上が「海外に駐在したいと思わない」と回答しているという調査結果も見かけました。そうした若者のマインドセットに限らず、人口減少に伴い生産年齢人口が縮小し続ける日本において、海外に駐在する人材を確保することがままならない事態となるかもしれません。日本企業のグローバル化が加速する中で、特に現地を託せる経営人材の不足は頭の痛い問題です。貴社ではどのように乗り越えようとしていますか。

私自身は、必ずしも日本人を現地に派遣することが最善だとは考えていません。むしろ、現地の優秀な人材を日本に迎え入れ、アビームの経営方針や成長戦略、そしてクライアントファーストに代表されるフィロソフィを共有したうえで、グローバルのリーダーとして活躍してもらう。そうした「日本発の価値観を持つグローバルリーダー」を育成することこそ、アビームグローバルの持続的成長につながると考えています。現地に精通した彼らが、顧客企業の海外成長戦略を支え、同時に当社も地域社会に深く根付いていく。この好循環こそ、私たちが目指す姿です。

もちろん、日本の若手社員に海外を経験させる機会は引き続き拡充していきます。ただし、現地のリアリティを理解し、文化・商習慣・人の心を動かせるリーダーは、できるだけ現地で見出すべきだと考えています。そのため、ガバナンスを目的として最小限の日本人を配置しつつ、現地人材を積極的に登用することで、ローカルの知見と日本・グローバルのマネジメント知を融合させ、より強靭な人財モデルを築く。彼らが顧客企業の海外成長を支えるパートナーとなることこそ、日本発のコンサルティングファームである当社の強みになるはずです。

具体的には、海外各リージョンからサクセッサー候補者を日本に招き、プロジェクト参画を通じてコンサルティングサービスに従事してもらった後、各拠点に戻るという仕組みづくりを進めています。

現場経験を通じて価値観と思考を共有した人材が、それぞれの拠点でチームを率いる。その循環こそが、アビーム流の〝多文化共創〟であり、お客様の変革とともにみずからも成長するモデルだと考えています。

Z世代こそ、次代の変革を担う即戦力

若手人材の育成についてもお聞かせください。いまZ世代を中心に、コンサルタントは若者の人気職種となっています。貴社にもコンサルタントを志す若者たちが多く入社していることでしょう。

そこでお聞きしたいのですが、デジタルネイティブ世代でもある彼らの価値観と、ある意味で「顧客の現場に深く寄り添う」ことが求められるコンサルタントの現場感との間には、大きなイメージギャップがあるように感じます。若手をプロフェッショナルへと育成するために、どのような工夫をされているのでしょう。

「顧客の現場に深く寄り添う」コンサルティングは、ともすれば労働集約的な支援、つまり人的リソースを投入して顧客企業に労働力を提供するBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)のようなイメージで語られがちです。もちろん、人手不足が叫ばれる昨今において一定の価値はあります。しかし、コンサルタントの真価はそこにはありません。

私は常々、「コンサルティングファームとは知を創出し提供するプラットフォームあるいはエコシステムでありたい」と伝えています。テクノロジーやAIの力を活用し、労働ではなく知を媒介として顧客の変革を支える。その時、初めてコンサルタントは「知の創造者」としての存在意義を発揮できるのです。そして、その新しい知の源泉となる感性を持っているのがZ世代です。彼らが有するデジタル・AIネイティブな思考や感覚は、まさに一つの専門性といえます。既存の枠に囚われない発想力とスピード感は、すでに即戦力として機能し始めています。

また、真の変革を実現するには、日本のデジタル・AIネイティブだけでは不十分です。多様な文化や価値観を自然に横断できる「グローバルネイティブ」人材も欠かせません。国籍・年代・性別・文化・価値観が異なる人材が融合し、切磋琢磨することで、新たな知が生まれる。その「知のエコシステム」を深化させながら、日本発のコンサルティングファームとしての独自性、すなわち「アビームらしさ」をいかに表現し続けるかを常に考えています。

私は新入社員にこう伝えています。「皆さんはすでに世界を変えうる武器を持っている。だから、これまでのやり方に違和感を覚えたり、新しいアイデアが浮かんだりしたら、ためらわずに声を上げてほしい」と。Z世代の感性と情熱こそが組織を動かし、未来を切り拓いていくのだと確信しています。

生成AIの登場によって、あらゆる業種のビジネスモデルや仕事の仕方が大きく変わろうとしています。人間の仕事がAIに奪われるのではないか、意思決定にAIが影響を及ぼすのではないかという不安を抱える人もいます。そんな中、コンサルタントの仕事の一部もAIに置き換えられるのではないかという指摘もあります。

この先、コンサルタントもしくはコンサルティングファームに求められるケイパビリティは何だと思われますか。

たとえば、チャットGPTに企業の中期経営計画を作成させてみるとしましょう。公開情報をもとに、それらしいドキュメントを生成することはできるはずです。しかし、そこにその企業が本気で取り組もうとしているCxOアジェンダや、独自の価値創造ストーリーを織り込むことはできません。仮説を立て、検証し、その企業ならではの強みや文脈を踏まえて未来を描く、この営みは、依然として人間が担うべき領域です。

加えて、AIは過去のデータを学習し最適解を導き出す存在です。一方で、人間が描くのは「まだ存在しない未来」です。不確実性の中でも、「ありたい姿」を構想し、そこへ向けて意思を持って行動する力。これこそが、コンサルタントに求められる最大のケイパビリティだと考えています。

私は、「知を提供するエコシステム」とは、顧客企業の未来構想を支える知の共創基盤だと考えています。そのために私たちは、常に学び続け、知を探索し、広い視野と高い倫理観を備えなければなりません。AIがどれほど進化しても、人間らしい知性、共感、倫理が組織の根幹であり続けます。これこそが、「非認知スキル」の重要な側面なのです。

むしろ、こうした人間ならではのケイパビリティと、AIが持つ圧倒的なテクノロジーの力を融合させ、新たな知のエコシステムをデザインしていくべき時代です。その中心に立ち、テクノロジーと人間の共創を推進するのはZ世代だと考えます。彼らの柔軟な思考と健全な倫理観が、新しい時代のコンサルティングをつくり出していくと確信しています。

多様性と専門性があふれる経営チームづくり

最後の質問です。山田さんは、「多様なメンバーが専門性を持ち寄ることで勝てるチームになる」と発言されています。特にマネジメントチームにおいて、どのようなチームビルディングを目指しているのでしょうか。

経営において最も重要なのは、「多様な視点をいかに掛け合わせるか」です。異なるバックグラウンド、経験、価値観を持つ人材が対話を重ね、互いに刺激し合うことで、新たな知や価値が生まれ、組織は進化します。多様性は単なるスローガンではなく、現場のみならず経営チームにも必要であり、企業の競争力そのものだと考えています。

その考えを具現化する取り組みの一つが、当社で推進している「サクセッションプログラム」(経営チーム創成計画あるいは次世代経営チーム育成プログラム)です。就任当初は将来の後継者を育成するプログラムとして構想しましたが、途中から「後継者育成」ではなく、「次世代の経営チームを創る」ことへ目的を転換しました。つまり、経営を個の能力に依存させるのではなく、戦略・経営・事業・財務・人事・テクノロジーなどの機能が有機的に連動し、一つの未来像を共有し、部門を超えて専門性を理解し合い、共通の目的意識を持って意思決定する。そのプロセスそのものが、持続的に強い経営チームを形づくっていくのです。

当然ですが、経営は社長一人で完結するものではありません。経営チームがその思想を体現し、次の世代へと継承していくことが、トップである私の責任だと考えています。

あらためて申し上げれば、私にとって最も重要な仕事は「アビームのエバンジェリスト」であることです。みずから先頭に立ってパーパスやプリンシプルを発信し、それに共感してくださるお客様やパートナーと対等な関係の下、ダイナミックな成長をともに描く。そして、経営チーム一人ひとりが、単なる専門家ではなく、「アビームという理念を体現するリーダー」として自身の言葉で語れるようになる。そのような文化を根付かせていくことが私の使命です。

「知を提供するエコシステム」を深化させるために、私はこれからも顧客中心主義の経営を貫き、顧客企業との対話が生まれる現場にコミットし続けます。

日本発の戦略ファームとしての矜持。知のエコシステムを深化させる顧客中心主義経営山田貴博
アビームコンサルティング
代表取締役社長
外資系コンサルティングファームでの日本、アメリカ勤務を経て、アビームコンサルティング入社。総合商社、金融、通信、エネルギー、運輸を中心に幅広い業界で戦略策定、経営・業務・IT改革などを担ったのち、金融・社会インフラビジネスユニット長に就任。2016年取締役、2020年代表取締役副社長COOを経て、2023年4月より現職。

聞き手|宮田和美

構成・まとめ|田口雅典(MGT)、久世和彦、宮田和美 撮影|福岡諒嗣(GEKKO)

●問い合わせ先
アビームコンサルティング株式会社
〒104-0028 東京都中央区八重洲2-2-1 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー
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