中規模製造業がDXを進めやすくなった
日本のものづくりは中規模および中小の製造業によって支えられている。特に中規模製造業は現在、大きな環境変化に向き合っている。そこには二つの課題があると、パーソルクロステクノロジー IT事業管掌 DX統括本部 コンサルティング本部 シニアマネージャーの清水一成氏は指摘する。
「第一に人材不足です。とりわけ地方に拠点を置く製造業は、人材獲得に非常に苦労しています。第二が技術継承です。熟練技術者の知見やノウハウを、いかに次世代に伝えるか。若手の技術者がなかなか集まらず、受け継いでくれる相手がいないケースも少なくありません。現場の平均年齢の上昇に、危機感を高めている経営者は多いのではないでしょうか。熟練工に頼らざるを得ない課題に加え、事業拡大とともに知らない間にノウハウが各部署に偏在し、属人化されたオペレーションが組まれた結果、効率化を阻んでいる事例も多く見掛けます。こういった課題の中で、より柔軟で競争力のある設計・生産・物流オペレーションを組むことが求められており、製造業としては喫緊の最重要課題であると考えています」
パーソルクロステクノロジーIT事業管掌 DX統括本部 コンサルティング本部
シニアマネージャー 清水一成氏
このような切実な課題の解決を目指す上で、デジタルには大きな期待が寄せられている。中規模製造業の間でも、DXへの取り組みを加速する企業が増えている。
日本の製造業は1980年代からコンピュータの導入、IT化を進めてきた。中規模製造業であれば、数十年前からCADやCAM、FAなどに取り組んできた企業が多いはずだ。その後、2000年代にはERPやSCMなどのパッケージソフト導入が進み、10年代には「インダストリー4.0」などのキーワードとともにデジタル化がさらに加速した。そして20年代、IoTやロボティクスなどの進展とともに、AIが大きなトレンドとなり、企業の活用が一気に加速している。
「中規模製造業はこれまで、その時代の技術動向を見ながら、新しい考え方やソリューションを受け入れ競争力を高めてきました。今のテーマはDXです。DXといってもさまざまな取り組みがありますが、その企業にとって最も効果的な領域を見極め、デジタル活用で人材不足や技術継承、生産性向上などの課題解決を目指すタイミングだと思います」と清水氏は言う。
なぜ、今がそのタイミングなのだろうか。清水氏はこう説明する。
「大手製造業はいち早くAIやIoTなどの技術、デジタルツインなどに取り組んでいます。その結果、ITベンダー側にノウハウが蓄積し、ソリューションはより使いやすくなりました。コンピューティングパワーも増加し実現できることが大幅に拡大して、価格面でも手の届く範囲のものが増えています。中規模製造業はDXを進めやすくなっているのです」
製造業DXを阻む三つのハードルを乗り越える
中規模製造業がDXを推進する上では、幾つかのハードルがあった。清水氏は3点を指摘する。
「第一に、変革を推進する人材の不足です。DXでは複数部門にまたがるテーマが多く、必要な知識や経験を備えているリーダーを見いだしにくい。DXのプロジェクトマネージャーを任せられる人材も少ないでしょう。さらに、デジタルツール導入に成功しても、それを運用する人材がいないケースもよく見掛けます。第二に、DXの効果が見えにくい、つまり投資対効果を数値化することの難しさがあります。結果、経営者として必要性は感じていながらも、意思決定をし切れないケースが多々あります。第三に、ベテラン技術者の頑張りで現場のオペレーションが回っているため、『あえて変える必要はないのでは』と考えがちな点です。しかし、ベテラン技術者も5年後、10年後にはいなくなってしまうかもしれません」
人材不足、投資対効果の数値化、「変える必要はない」という意識。これらのハードルの先にDXがある。パーソルクロステクノロジーは、ハードルを乗り越えるためのサポートを提供している。
「当社の強みは幾つかあります。まず、エンジニアやコンサルタントなど、多様な人材の厚みです。エンジニアだけでも約1万人を擁しており、機械や電気、ITなど幅広い分野をカバーしています(図1)。また、当社は長く製造現場などへの派遣事業を展開しています。派遣事業を通じて運用のノウハウを培ってきました。そして、人材教育に非常に注力しています(図2)。ツールやシステムを導入するだけでなく、運用を含めたサポート力は当社の大きな強みです。加えて、お客さまと共に構想を描き、戦略を策定するコンサルティング能力を備えています」
図1 パーソルクロステクノロジーが擁する多様な人材拡大画像表示
図2 パーソルクロステクノロジーの研修制度拡大画像表示
また、同社のコンサルティング部門では、DX化の青写真を描くだけではなく、効果創出に向けた適切なロードマップを作ることも支援。「投資対効果が見えない」という課題に対しては、「小さく段階的に始めて効果を立証する」「現場のプロセスを確認して省力化余地を適切に把握する」「他社のベンチマークを基に目指すべき水準を設定する」といった形で、経営者と共にDX実現への道筋を描くという。
DXの先にある企業の将来像を共に考え、それを戦略から計画に落とし込む。さらにシステムの設計、構築、運用を含めてトータルにサポートする。そんな伴走型のサービスがパーソルクロステクノロジーの特徴だ。
同社が参画することによる効果として分かりやすいのは、冒頭で清水氏が指摘した二つの課題への対応だろう。DXで現場の生産性が2倍になれば、2人必要だった仕事が1人でできる。また、デジタルツールを用いて業務を標準化すれば、属人性が排除され、新人でも一定レベルの仕事ができるようになるだろう。
パーソルクロステクノロジーの支援は、それだけにとどまるものではない。同社の幅広い支援サービスの全体像を図3に示した。サービス領域としては大きく三つのレイヤーがある。「企画・構想策定領域」「設計・開発・生産準備領域」「製造領域」である。
図3 パーソルクロステクノロジーが提供するサービス概要拡大画像表示
「ものづくりの全体、DX構想をサポートするのはコンサルティングチームです。中段の設計・開発・生産準備領域ではMBSE(Model Based Systems Engineering)/MBE(Model Based Enterprise)システム構築や、PLM(Product Lifecycle Management:製品ライフサイクル管理)構築、デジタルツイン構築などの幅広いソリューションを扱っています。製造領域では工場などのIoT活用や工場自動化(スマートファクトリー、AGV導入)を支援するケースが増えています。三つのレイヤー全てにおいて、AI活用は大きなテーマです」と清水氏は説明する。
PLM活用、デジタルツイン実装で効果を上げた事例も
中規模製造業に対する、パーソルクロステクノロジーのサポート実績は着実に積み上がっている。例えば、エネルギー分野の中規模製造業A社は、PLMを活用することで、設計開発の生産性を大きく向上させた。
「A社は以前、図面と関連情報の管理を各設計者に委ねており、一元的な管理ができていませんでした。リビジョン管理も不十分で、図面番号で探すと複数の図面が出てきて、そこから目視で確認して最新図面を特定していました。こうした非効率をなくすため、A社はPLMの導入に踏み切りました」と清水氏は話す。
PLMを検討する中で、A社は複数のITサービス企業に提案を依頼。採用されたのが、パーソルクロステクノロジーの提案である。
「決め手は導入後のサポートでした。ITサービス企業の多くは導入支援のみで、運用を含めて支援するケースは少ない。私たちはPLMが現場に定着するまで支援します。例えばソフトウェアの細かなカスタマイズだけでなく、ソフトウェアの仕様に合わせた社内ルール(運用方法)の見直し(Fit to Standard)の支援を行います。必要であればお客さま側の技術者への教育、あるいは当社からの技術者派遣にも対応します」
ITソリューションは、運用して初めて効果を創出することができる。パーソルクロステクノロジーは運用を含めてサポートすることで、効果づくりに伴走している。
もう一つの事例は、工場用設備分野の中規模製造業B社である。B社はシミュレーションソフトを活用して、社内各部門に改善提案を行う新部門を立ち上げた。いわば、社内コンサルティングチームである。
「シミュレーションソフトを検討する段階で、当社に声が掛かりました。生産ラインの立ち上げを円滑に進めるために、シミュレーションを活用したいとのことでした。目指したのはデジタルツインです。生産ラインは他にもあるので、同社はシミュレーションの実装経験を基に、他のラインにもノウハウを横展開したいと考えました。そこで、シミュレーションシステムの構築とコンサルティングの経験を持つ当社がパートナーに選ばれました」と清水氏は言う。パーソルクロステクノロジーから吸収したコンサルティングノウハウは、新部門の今後の活動に生かされることになる。
テクノロジーの進化は加速している。同じ技術でも、次々に新しいソリューションや使いやすいサービスが登場している。
「例えば、デジタルツインは、大手製造業が一部の生産ラインなどで導入する先進的な取り組みというイメージがあったかもしれません。しかし、その構成要素となる技術やツールは進化し、比較的安価で導入可能になっています。中規模製造業にとっても、デジタルツインは実現可能になりました」と清水氏。デジタルツインに限らず、その指摘は幅広いDXに当てはまるだろう。
企業の競争力において、デジタルの重要性は高まるばかりだ。DXに積極的な企業と消極的な企業の差は、今後さらに拡大するに違いない。清水氏は「他社に先駆けてDXを実現すれば、それは競争力強化に直結します。そのためには、経営者の意思決定とコミットメントが欠かせません」と語る。
グローバルな事業展開も重要な観点だ。標準的なデジタルツールを活用すれば、グローバル市場、グローバルサプライチェーンにアクセスしやすくなる。それは、海外展開を目指す中規模製造業にとって、新たな事業機会となるだろう。
「喫緊の課題としては人材不足、技術継承への対応が重要ですが、これらの課題の解決を入り口に、デジタル化の訓練をするべきです。その上で、オペレーション全体のデジタル化を通じたDXに取り組み、大きなビジネス価値を生み出していくことを構想していく必要があるでしょう」と清水氏。一連のプロセスで確実な効果を創出するためには、適切なパートナー選びが重要。パーソルクロステクノロジーはその有力候補となるはずだ。
