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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

米国債格下げは「終わりの始まり」か
金融緩和競争でドル凋落が加速するリスク
――熊野英生・第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト

島本幸治 [BNPパリバ証券東京支店投資調査本部長/チーフストラテジスト],高田 創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト],森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト],熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第34回】 2011年8月10日
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歴史は繰り返すか

 8月6日にS&Pが米国債を格下げした。史上初めて最上位AAAの喪失である。株式市場では、格下げに驚き、大暴落が起こった。米政府は、格下げの扱いに強く反発し、その正当性を疑う声がある。

 筆者の脳裏に浮かぶのは、1998年11月に日本が初めてAAAを失ったときのことだ。格下げしたのはS&Pではなくムーディーズ。経常黒字国の日本では、国内貯蓄によって国債消化ができる。

 デフォルト・リスクはないので、格下げの評価は正しくないという反論が多かった。
批判の矛先は、デフォルトの有無に集中し、政府の財政運営の反省には至らなかった。

 それから十数年が経過して、日本のソブリン格付けは一時の改善はあったものの、下がり続けている。いや、政治サイドが財政規律を重視する考えに舵を切らないと、まだ引き下げられる可能性がある。

 米国でも、1998年の日本がそうだったように、現時点では「これは不当だ」「今回は特殊だ」と言っていても、数年の時を経て、長期化する財政問題の「あれは終わりの始まり」だったということになりかねない。

 米国の債務問題は、債務上限を巡る一過性のドタバタ劇ではなく、これから米国が低成長の中で苦しみ続ける構造問題になっていくという見方だ。

米国の格下げ懸念はドル安要因

 米国債の格下げの危うさは、世界のマネーフローを狂わせる流れをつくりかねないことだ。米国債の約半分は、海外が保有する。2000年代に入って、グローバル・インバランスの拡大とともに、新興国は巨大な外貨準備を蓄えた。

 その運用資産の少なからぬ部分が米国債になっている。ドルは基軸通貨国の通貨なので、デフォルトは起こり得ないにしても、新興国はドル安による減価リスクを心配するだろう。

 減価リスクは、米国の貿易決済をドルで行なっているうちは感じなくても、対ユーロ・対円で取り引きするときは外貨準備の購買力低下を実感する。だから、外貨準備をドル以外に分散させる流れは強まるであろう。

 ガイトナー米財務長官が、8月9日に電話会合で中国の王岐山副首相と金融市場の安定化について話し合ったことは、中国が米国債の最大の保有者であることに配慮したものだ。

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島本幸治 [BNPパリバ証券東京支店投資調査本部長/チーフストラテジスト]

しまもと・こうじ/1990年、東京大学卒業、日本興業銀行入社。調査部門で金利分析や経済予測を担当。2000年からBNPパリバ証券で投資調査本部長兼チーフストラテジストとして金融市場予測を担う。日本経済新聞社の債券アナリスト・エコノミスト人気調査の債券部門では06、08年に1位。金融庁の金融市場戦略チームや金融税制研究会、行政刷新会議の事業仕分けなどに参加。

高田創 [みずほ総合研究所 常務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト]

たかた はじめ/1958年生まれ。82年3月東京大学経済学部卒業、同年4月日本興業銀行入行、86年オックスフォード大学修士課程修了(開発経済学)、93年審査部、97年興銀証券投資戦略部、2000年みずほ証券市場営業グループ投資戦略部長、06年市場調査本部統括部長、チーフストラテジスト、08年グローバル・リサーチ本部金融市場調査部長、チーフストラテジスト、11年より現職。『銀行の戦略転換』『国債暴落』『金融市場の勝者』『金融社会主義』など著書も多い。

森田京平 [バークレイズ証券 チーフエコノミスト]

もりた・きょうへい/1994年九州大学卒業、野村総研入社。98年~2000年米ブラウン大学大学院に留学し、経済学修士号を取得。その後、英国野村総研ヨーロッパ、野村證券金融経済研究所経済調査部を経て、08年バークレイズ・キャピタル証券入社。日本経済および金融・財政政策の分析・予測を担当。共著に『人口減少時代の資産形成』(東洋経済新報社)など。2010年7月より、参議院予算委員会内に設置された「財政再建に向けた中長期展望に関する研究会」の委員を務めている。

 

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

リーマンショック後の大不況から立ち直りつつあった日本経済の行く手には、再び暗雲が立ち込めている。留まることを知らない円高やデフレによる「景気腰折れ不安」など、市場に溢れるトピックには、悲観的なものが多い。しかし、そんなときだからこそ、政府や企業は、巷に溢れる情報の裏側にある「真実」を知り、戦略を立てていくことが必要だ。経済分析の第一人者である熊野英生、高田創、森田京平(50音順)の4人が、独自の視点から市場トピックの深層を斬る。

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