「能力も覚悟もない」首相は願い下げ

 8月13日の『読売新聞』朝刊一面に、印象的な記事があった。「前原氏、不出馬の意向」という見出しの記事だが、この中に次のような文章がある。

 「前原氏は周囲に『首相と閣僚では仕事の大変さが違う。私には能力も覚悟もない』と語っているという」

 前原誠司氏については、古くは、民主党代表時代に起きた「永田メール事件」、政権が民主党に交代してからは、八ッ場ダムを巡る問題や、JALの処理、さらに尖閣列島沖の中国漁船の問題などで氏が見せた、はじめに勇ましくて、後から手に負えなくなって尻尾を巻く何度も見せた気の小さい番犬のような行動パターンを思い起こすと、「能力も覚悟もない」というご本人の言葉には、一分の反対意見の余地もない。正確無比な自己認識に敬意さえ覚える。

 しかし、現職の議員で首相候補の声が掛かることもある政治家が、果たして、ここまで謙った物言いをするものなのか。この言葉を伝えた周囲の人物とはいったい誰なのか。記者は、どんな気持ちでこれを文字にしたのか。読売新聞のデスクは、どう考えてこの記事を載せることを了承したのか。文字になってみると、面白すぎる! 前原氏の顔が浮かぶと共に、笑いが込み上げてくる不思議な味わいの記事だ。

 氏の発言の真偽(あるいは「真意」)はともあれ、菅直人氏の後の首相ポストは、前原氏のような政治家にとって、あまり魅力的なものではないらしい。選挙はしばらく先まで延ばすことが出来るが、衆参が「ねじれ」の状況にある中で、政権運営が思うに任せないから、ということだろうか。これは、所詮、自分の政策にも、政治家としての説得力にも自信がないという理解でいいだろう。確かに、能力と覚悟の両方が足りないのだ。

 ご本人が明言したわけではないが、今代表になり首相になるよりも、来年の9月の民主党代表選挙で代表になって、選挙の顔となって総選挙を戦うシナリオの方が前原氏にとって魅力的であるらしいという観測がある。

 しかし、一年少々で首相に必要な能力や覚悟が養われるはずもないし、これからまた短命政権を作ることが日本の政治にとっていいことだとはとても思えない。