『ヱヴァンゲリヲン』の制服づくりで大ブレイク!<br />地方洋服店「株式会社このみ」の驚くべき営業力「株式会社このみ」のHP。『ヱヴァンゲリヲン』とのコラボ企画ばかりでなく、その他の商品にも気を配って、オシャレなサイトになっている。

 新潟県妙高市と言えば、その名の通り、美しい妙高山と美味しいお米が有名。大型ショッピングセンターが出店してからというもの、隣接する上越市と共に、昔ながらの商店街はすっかり陰を潜めた。

 そんななか、あの人気アニメ映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のキャラクターが着ている制服を製造販売し、人気を博している会社がある。妙高市に本社を置く「株式会社このみ」だ。これは、『ヱヴァンゲリヲン』シリーズでキャラクターデザインを担当した、貞元義行氏とのコラボである。

 なぜ、地方の洋服店がこのようなコラボ企画に参加できたのか。「株式会社このみ」の相浦社長に、その営業力について聞くことができた。相浦社長が制服作りに着目したのは、ある出来事がきっかけだったという。

 それは、地元でまだ15坪程度の洋服屋を営んでいた頃の話。ある日、私服通学の高校へ進学が決まった娘とその母親が訪れたときに、娘が言った一言だったという。「私、制服で通学がしたい」

 おしゃれがしたい年頃の高校生にとって、私服ではなく制服こそが、その世代の人気ファッションアイテムだと気づかされたのだ。さらに、日曜日まで制服を着て楽しそうに友人と過ごす女子高生たちを見て、「彼女たちは、制服を私服としても楽しんでいるのだ」と感じた。

 そこで相浦社長は、おしゃれであっても一時だけ着用するコスプレではない、私服としても楽しめる丁寧なつくりの制服づくりを始めた。しかし、制服には制約が付き物。校則やPTAなどとの兼ね合いがあるし、大人から見ても問題があってはならない。その範囲の中で、彼女たちの個性をより引き出せる制服をつくるという信念を、頑なに守った。そしてHPを立ち上げて、制服をメインに販売を開始した。

 このHP、最初こそアクセス数は少なかったものの、3年後には月間100万アクセスを超えるようになったという。そこで、HPでしか販売していなかった制服を、渋谷で「ブランド制服コレクション」と題して即売することにした。即売会の告知はHPだけ。開催前日まで50人しか参加応募者はなく、不安な一夜を過ごした。ところが、いざ当日になってみると、2日間で1000人もの人が来場し、驚いた。

 そこで初めて、ファッション業界や雑誌関係者から「このみさん、ようやく東京へ来てくれましたね」と声をかけられた。その後同社は、2009年にNHK『東京カワイイTV』でパリプロジェクトの日本代表に選抜され、AKB48の板野友美さんとのコラボ商品も製造するなど、活躍の場を広げていく。

 そして、日本テレビ『ぐるナイ』で、佐々木希さん、江角マキコさんが着用している制服や、映画「時をかける少女2010年公開版」にも採用されるほどの企業に、成長を遂げた。

 世の中に、『ヱヴァンゲリヲン』の商品を販売したい企業は多数ある。しかし、その中で同社が選ばれたのは、当然の結果だったと言えよう。『ヱヴァンゲリヲン』の制服をつくり上げるまでには、長い道のりと苦労があった。

 アニメでは、どうしても細部までこだわって描くことに限界がある。たくさんのアニメーターが、限られた時間の中で絵を描かなければならないからだ。貞元義行は、このジレンマを解消したいと考えていた。それには、「本物の制服をつくれるこのみしかない」と白羽の矢が立ったわけだ。

 この貞元氏の熱意に応えようとする相浦社長の努力が、また凄い。既製のものは使わず、まずはヱヴァの制服のためだけに、独自の糸染から始めた。何度も打ち合わせを重ね、約1年もの時間をかけて、粘り強く制服をつくり上げた。相浦社長が「一番になりたい」という信念を持っているからこそ、貞元氏の要求に応えられたに違いない。

 ヱヴァンゲリヲン・ファンには、「オタク」という言葉では片付けられないほど、コアなファンが多い。相浦社長は、「でき上がった制服がファンの方々に賞賛で迎えられたときには、素直に嬉しかった」と語る。

 相浦社長は全国的に成功を収めているが、何より地元を大切に考えている。地元の人とも仕事をしたいと願っているのだ。その証拠に、株式会社このみのロゴマークは「AR」だが、これは出身地である妙高市「新井」(あらい)からとられている。

 一番になりたいという信念と、絶対に実現するという粘り強さ、そしてユーザーが求めるものへの追求心に満ちた相浦社長の営業力は、今後世界へと向かっていくだろう。

(木村明夫/5時から作家塾(R)