社会・経済の不確実性が高まる中での「みずほ総合研究所」の存在意義とは
シンポジウムの冒頭、トップインタビューに登壇したみずほ銀行の加藤勝彦頭取と、みずほ総合研究所の牛窪恭彦理事長は、統合の狙いを力強く語った。
加藤頭取は、統合の背景を「外部環境の不透明性の高まりを受けた『質の高い情報提供』と、金利が定着する世界における『金融面の対応』という、2つの大きな顧客ニーズに応えるため」と説明する。変化の時代を乗り切るための羅針盤となる「知」と、それを具体的なアクションにつなげる「金融」。この2つをワンストップで提供すべく、「金融」と「非金融」の壁を取り払う決断を下したのだ。
この新体制の下で、みずほ銀行内のシンクタンクとして発足したのが、約500人のエコノミストやコンサルタントといった専門家集団から成る「みずほ総合研究所」である。
牛窪理事長は、「みずほ総合研究所」が持つ、他社にはない強みとして、主に3つの点を挙げる。
第一に、一般的にイメージされるエコノミストや戦略コンサルタントに加え、理系博士や金融実務家など多様な背景を持つ専門家が結集し、多角的な議論から新たな知恵を創出する『知の多様性』。第二に、経済分析から戦略提言、さらに銀行だから可能な金融サービスの実行までを迅速につなぐ『ワンストップ機能』。そして第三に、『業界随一の産業知見を持つ産業調査部との連携』。
みずほ総合研究所と産業調査部が緊密に連携することで、「お客さまへ時代の一歩先を行く付加価値をもたらすことができる」と牛窪理事長は自信を見せる。
では、みずほ総合研究所は、この複雑な時代をどう読み解き、日本が進むべき道筋をどう描くのか。続くセッションで、その核心が明らかになる。
【基調対談】漂流する国際秩序における日本の進路とは
左 みずほ総合研究所 太田智之チーフエコノミスト、右 東京大学 柳川範之教授
基調対談では「漂流する国際秩序と日本の進路」をテーマに、東京大学の柳川範之教授とみずほ総合研究所の太田智之チーフエコノミストが対談。現在の世界を「一時的な現象ではなく、構造そのものが変わった時代」と定義し、日本が進むべき進路を3つのテーマに即し議論した。浮き彫りになったのは、これまでの延長線上にはない『非連続な変化』に向き合う覚悟である。
地政学リスクが高まる中での官民連携について、柳川教授が指摘した「官民が互いに依存せず、責任の所在を明確にする『責任分担』」という視点は鋭い。不確実性が高いからこそ、双方がリスクへの覚悟を持ち、中長期の投資に臨むという、より成熟した関係へのアップデートが求められているのだ。
さらに企業経営においては、デフレ時代の「縮み思考」からの断絶的なマインドセット転換が不可欠となる。柳川教授は「失敗を前提に挑戦すべき」と説き、AI時代にあえて「人的投資」と「リアルな現場での経験」を競争力の源泉に挙げた。AIが代替できない人間の付加価値をどう高めるか。これは全企業に突き付けられた喫緊の課題といえる。
では、日本の勝ち筋はどこにあるのか。議論は、日本の優れた技術や社会システムを「国際公共財」として世界に提供していくという壮大なビジョンに行き着いた。日本の制度が世界のスタンダードになれば、結果的に日本企業の事業環境も有利になる。太田チーフエコノミストが最後に引用した渋沢栄一の『論語と算盤』は、まさに現代のパーパス経営に通じる。自社の利益と社会課題の解決を同期させることこそが、構造変化の時代を勝ち抜く最大のヒントなのだ。
【トークセッション1】日本産業の勝ち筋と企業の成長戦略とは?
基調対談で示されたマクロな視点から、日本の産業構造転換をどう推し進め、それをいかに「個社」の成長戦略へと落とし込むか。トークセッション1では、産業論と企業戦略を交差させる実践的なアプローチが議論された。国や金融機関が次なる産業の勝ち筋を描き、それを踏まえて企業がどう動くか。その結節点にこそ、成長の鍵がある。
左から みずほ総合研究所 上川裕之ヒューマンキャピタルコンサルティング部長、同 米倉博史ストラテジーコンサルティング部長、みずほ銀行 定岡祐二前執行役員産業調査部長、経済産業省 経済産業政策局 松田洋平産業創造課長、モデレーター 木場弘子キャスター
まず産業競争力強化の観点から、みずほ銀行の定岡祐二前産業調査部長は、日本固有の強みを活かせる有望領域として「モビリティ」など5領域を提示。日本の勝ち筋として、屋台骨である自動車産業などの強みを宇宙やサービス業といった他分野へ応用する「既存産業基盤の転用・有効活用」の他、「すりあわせ・おもてなしの適正な価値づけ」「地政学リスクの高まり等の機運を活用」を説いた。
一方、個社の成長戦略に目を向けると、経済産業省の松田洋平産業創造課長は、企業の中長期の価値創造に向けた成長投資の重要性に言及。経済産業省では、企業と投資家の共通理解をつくる指針として「成長投資ガイダンス」の策定を検討しており、「価値創造のために資本効率の改善に加えて投資を拡大すること」や「成長ステージに応じた成長投資と株主還元のバランスの検討」が重要になると説明した。
しかし、個社のケイパビリティや業界でのポジションが異なる中、産業レベルの大きな絵を具体的な成長戦略に落とし込むことは容易ではない。みずほ総合研究所の米倉博史ストラテジーコンサルティング部長は「足元でマクロ経済や地政学が大きく動いている中、産業全体を俯瞰した『産業論』の観点から、企業のお客さまの戦略に伴走する機会が増えている」と現場の実情を明かす。まさに、銀行が持つ産業知見と、個別企業の課題に寄り添うコンサルティング機能の連携が求められる局面だ。トップインタビューで牛窪理事長が語った、産業調査部とみずほ総合研究所の緊密な連携が真価を発揮する場面がますます増えそうだ。
【トークセッション2】産・官・金連携による社会課題の解決の在り方とは?
日本の持続的成長には、人手不足といった構造的な社会課題の解決が不可欠だ。トークセッション2では、「物流業界の人手不足と自動運転の社会実装」を題材に、産・官・金連携による課題解決の実践知が共有された。
左から みずほ総合研究所 西田拓哉ソーシャルイノベーションコンサルティング部長、ヤマト運輸 福田 靖常務執行役員(グリーン・モビリティ事業統括)、国土交通省 木村 大物流・自動車局官房審議官、モデレーター 木場弘子キャスター
「2030年には現状の36%の荷物が運べなくなる可能性がある」。ヤマト運輸の福田靖常務執行役員は、物流危機の深刻さを具体的な数字で示した。さらに「国内の営業用トラックの平均積載率は約4割程度といわれている。半分は空気を運んでいるような状態だ」と長年の商慣習が生んだ非効率な構造を指摘。これがドライバーの長時間労働や低賃金につながり、人手不足を加速させているという。
この危機に、国も動く。国土交通省の木村大官房審議官は「自動運転は、次期総合物流施策大綱の中でも“一丁目一番地”のテーマ」と断言。しかし、木村審議官は「現在の物流を単に自動運転トラックに置き換えるだけでは、本当の意味での効率化は図れない。24時間365日稼働を前提とした、全く新しい運び方・商慣習に変える必要がある」と、ビジネスモデルそのものの変革を強く促す。
この指摘に、福田常務も「我々が変わらなければならない、最後の過渡期だと認識している」と応じる。「物流サービスに適正な対価が支払われる社会を実現していきたい。荷主の皆さまも含めた物流の商慣習全体を変えていきたい」と、業界を挙げた変革への決意を語った。
この壮大な変革は、一社の努力では成し遂げられない。荷主と運送会社、時には競合他社とも手を取り合う「協調」が不可欠だ。その中で金融機関・シンクタンクに期待される役割について、木村審議官は「荷主と運送会社の双方の情報を持ち、ビジネスをつなぐことができる金融機関は、取り組みの輪を大きくする“触媒”の役割が求められる」と指摘。福田常務も「金融機関の力で業界が一致団結できる“種”をつくってほしい」と期待を寄せた。
個社の論理を超え、社会全体の最適解を導き出す。みずほ総合研究所が、ステークホルダーをつなぐ社会変革のハブとなる可能性が、この議論から強く伝わった。
一歩先の未来へ「ともに挑む。ともに実る。」
金融機能と一体となり、提言から「社会実装」までをスピードとスケール感を持ってやり切る――。それが新生「みずほ総合研究所」が目指す姿だ。
シンポジウム全体を通じて浮かび上がったのは、日本企業は大きなリスクや不確実性の高い時代にどう向き合うべきかという共通の課題だった。
シンポジウム終了後、牛窪理事長は次のように決意を語った。
「新生『みずほ総合研究所』は、提言にとどまらず、金融との融合によって社会実装を完遂することを目指します。官民双方に強みを持つ500人の専門家が、複雑な課題に最適解を導き出し、お客さまの挑戦に寄り添います。一歩先の未来へ、みずほ銀行のパーパスである『ともに挑む。ともに実る。』の精神で、企業の皆さまと共に日本の景色を変えていきたいと考えています」
みずほ総合研究所 牛窪恭彦理事長
産・官・学・金の有識者が一堂に会した、本シンポジウムは日本の「勝ち筋」を知る上で示唆に富む議論の連続であった。ダイジェスト版は以下のURLから視聴できる。ぜひその目で確かめてほしい。
トップインタビュー: 加藤勝彦氏(みずほ銀行 取締役頭取)、牛窪恭彦氏(みずほ総合研究所 理事長)
基調対談: 柳川範之氏(東京大学大学院経済学研究科 経済学部教授)、太田智之氏(みずほ総合研究所 チーフエコノミスト)
トークセッション1: 松田洋平氏(経済産業省 経済産業政策局 産業創造課長)、定岡祐二氏(みずほ銀行 前執行役員産業調査部長)、米倉博史氏(みずほ総合研究所 ストラテジーコンサルティング部長)、上川裕之氏(みずほ総合研究所 ヒューマンキャピタルコンサルティング部長)
トークセッション2: 木村 大氏(国土交通省 物流・自動車局 官房審議官)、福田 靖氏(ヤマト運輸 常務執行役員〈グリーン・モビリティ事業統括〉)、西田拓哉氏(みずほ総合研究所 ソーシャルイノベーションコンサルティング部長)、甘利朋矢氏(みずほ総合研究所 サステナビリティコンサルティング部長)
モデレーター:木場弘子氏(フリーキャスター) *基調対談を除く
みずほ総合研究所発足記念シンポジウム
https://www.youtube.com/watch?v=XwiIKMKdm_Q
みずほ総合研究所について
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/mhri/index.html
※みずほ総合研究所はみずほ銀行内の組織の名称です。
