私たちは、テクノロジーを活用してお客様のビジネス変革をご支援する業務に取り組んでいます。企業のさまざまな部門の方が、データ分析、人工知能の活用について検討されている現場にうかがっている中、2017年が明けてから大きな変化を感じるようになりました。それは、現場での「ハードウェア資源不足に対する危機感」を目にするようになったのです。こうした現象を、私たちは「ビッグデータ時代の終焉」と呼び、これまでと潮目が変わったことを、日々のコンサルティング業務を通じてお客様に伝えてきました。

今回から5回にわたって、こうした潮目の変化とそれに対する経営の構えについて、製造現場、IIoT等のセンサーデータの活用、ヒトの能力を拡張するようなテクノロジーの活用について触れながら、「ビッグデータ時代の終焉」について、私たちの考えを述べたいと思います。

ビッグデータは過去の思い出
――さらば、データサイエンティスト

Yasuhiro Hyashi林 泰弘(はやし・やすひろ)
KPMGコンサルティング
Advanced Innovative Technology
パートナー

大手コンサルティングファームにおいて、中央官庁及び独立行政法人向けに事業評価、業務効率化、ITアウトソーシングの推進に携わる。平成23年度より2年にわたり、国土交通省情報統括化責任者(CIO)補佐官に就任。 慶應義塾環境情報学部講師、会津大学非常勤講師、青森県統計データ利活用セミナー講師などを歴任。KPMGコンサルティングにおいて、先端技術を活用してビジネス変革を推進するAdvanced Innovative Technologyチームを統括している

 データ分析を武器とした経営に必要な備えは、「アルゴリズム」「知識」「アーキテクチャ」の3つです。ビッグデータ時代に成功していた企業は、この3つのバランスを取りながら自社の人材、マーケットにおける状況にあわせて、自社の強みを活かすことができる領域に対して重点的に投資を行ってきました。

 しかし、アルゴリズムの複雑化、データ量の爆発的増加、ハードウェア性能の相対的な不足等、今起きている変化によって、3つのバランスが崩れ始めています。これまで優位を保っていた企業も変化の波に飲み込まれ、競争環境、市場動向に大きな変化が生まれやすい状況です。

 具体的な事象として、大量データの中から価値あるデータを探索していたデータサイエンティストの存在意義が揺らいでいます。というのも大きな成果を上げているのは、ビッグデータとは言えない、いわばスモールではあるけれども知恵が詰め込まれたデータを扱う場合が増えているからです。

 例えば、Wikipediaに登録されたデータは日々発生しているデータに比べれば必ずしもビッグとは言えず、スモールではあるものの、知識のかたまりであり調べ物を行う際にまず活用される事例が増えています。

「ビッグデータ時代」の終焉出所:KPMGコンサルティング