青年時代から
不思議な出来事に遭う
何かの分野を一筋に研究した人物の評伝には名作が多い。中でもとりわけ面白いのが、厳格でアカデミックな世界をいかに破天荒に生きたかというタイプのものだ。生きている世界と生き方とのコントラストが、読者を惹きつけ魅了するわけである。そういった意味で、本書もコントラストの妙が効いているタイプの一冊ではあるのだが、世界と生き方の関係がそれらのものとは反転している。
岡本和明&辻堂真理 (著)、新潮社、288ページ、1500円(税別)
超常現象研究家の中岡俊哉(1926~2001)。毎年この時期になるとテレビで怪談のコーナーや心霊特集の番組を見かけることも多いが、その礎を作った人物といっても過言ではないだろう。スプーン曲げ、心霊写真、コックリさん、透視予知など、あらゆるオカルトブームの中心にはいつも彼がいた。だがいわゆるブームを派手に仕掛けた業界人然としたイメージからはほど遠い。本書『コックリさんの父――中岡俊哉のオカルト人生』は怪しく、不確かな世界を、実に真摯に生き抜いた男の一代記である。
裏を返せば、真摯に生きることが面白く見えるほど、超常現象の世界は玉石混交で、取り上げるテレビや雑誌といったマスコミの世界も黎明期特有の怪しさに満ちていた。だからその人生には、ジャンルとして確立されていないテーマを扱う悲劇がつきまとう。
まだ何者でもない青年時代から、何かに導かれるように不思議な出来事ばかりが彼に直面した。馬賊になることを夢見て満州に渡るも、ときは太平洋戦争の真っ只中。なんとか製鋼所に就職するものの、終戦とともに会社は崩壊。やがて中国の地下組織の一員として国共内戦へ参加し、いつのまにか北京放送のアナウンサーへ。その過程において3度の臨死体験を経験しているというから、超常現象研究家になるまでの半生の方がアンビリバボーだ。
日本に帰ってきたのが1956年。職探しをする中で、中国時代に集めた怪奇譚をまとめることを思いつく。おりしも時代は週刊誌や漫画雑誌が雨後の筍のように誕生する真っ只中。ネタ不足に陥ってたマスコミ各社に重宝され、その後は一躍仕掛け人としてスターダムにのしあがっていく。