最近いろんな経営者と話をしていると、よく出てくるのが「生き残りのため」という言葉。「で、どうするんですか?」と聞くと、「グローバル化せざるを得ない」と返って来ます。ここで僕はほとほとがっかりしてしまいます。「ビジネスモデルを転換せざるを得ない」「中国に出ていかざるを得ない」というけれど、実際は誰も頼んでいないのですから。
ビジネスの根本原則を確認する必要があります。それは「自由意志」。
商売は誰からも頼まれていない、誰からも強制されていない、自分の意志でやるものだ、という自由意志の原則、これはもう、あらゆるビジネスの大前提のはず。これが商売の最後の拠り所になるのです。
にもかかわらず「…せざるを得ない」と経営者が言うのは、もはや経営の自己否定です。言った瞬間、商売がよって立つ根幹を失う。経営者が言うべきことは、生き残りもいいけれど、生き残って何をしたいのかってことです。人も企業も生きるために生きているのではないのですから。
僕が、『ストーリーとしての競争戦略』という本で強調したかったことのひとつが、戦略は「こうなるだろう」という単なる先読みではなく、「こうしよう」という意志の表明だという当たり前のことです。「円ドルはこうなる」とか、こうなるだろうって話は経済学者に任せておけばいい。経営者から今こそ聞きたいのは、「こうしよう」という商売の意志表明です。
かつて、ソニーやホンダが、トランジスタラジオや二輪車をアメリカに持っていったとき、「生き残りのため、北米に行かざるを得ない」と言っていたでしょうか。確認したわけではないですが、絶対に言っていなかったと思います。「こんなにいいものつくったのだから、ぜひともアメリカ人にも使わせてあげよう!」ぐらいの勢いだったはずです。
つまり、それが国内だろうとアメリカだろうとグローバルだろうと、自信を持って堂々と朗らかに出ていかなければそれこそ話になりません。グローバル化はウキウキワクワクニコニコしながらやるべきものです。その自信や明るさがどこから出てくるのかというと、「こういうことをやるぞ」という自らの意志です。