作家であり、金融評論家、社会評論家と多彩な顔を持つ橘玲氏が自身の集大成ともいえる書籍『幸福の「資本」論』を発刊。よく語られるものの、実は非常にあいまいな概念だった「幸福な人生」について、“3つの資本”をキーとして定義づけ、「今の日本でいかに幸福に生きていくか?」を追求していく連載。今回は「仕事と幸福度」について考える。

日系企業は欧米企業の人材供給源と化している

 現代社会の特徴を知識社会化・グローバル化・リベラル化の三位一体構造ととらえると、(グローバル化の起点となった)1990年代になって日本企業がなぜ世界での競争から脱落しはじめたのかもわかります。

 そもそも日本的な雇用制度では、「本社採用」「現地採用」という言葉に象徴されるように「ジャパニーズファースト」が当然とされ、国籍の異なる人材を平等に扱うことができません。現地採用の社員が本社に異動することはないし、現地法人のトップや幹部は常に本社から派遣された(現地の言葉はもちろん英語すら話せない)日本人社員です。ここまで「差別」が露骨だと、外国人社員が魅力を感じるはずはありません。

 こうして中国や東南アジアでは、優秀な現地の若者は2~3年日系企業で働いて仕事を覚えると、さっさと(グローバル基準の人事制度を持つ)欧米企業に転職していくようになりました。人材獲得競争で常に負けつづけるのですから、どれほど本社の日本人社員が(無駄な)努力をしたところで、現地のビジネスを拡大することなどできるはずはないのです。──日系企業で現地化に成功したのが、日本的雇用が一定の優位性を持つ製造業や流通業などに限定されているのはこれが理由です。

 日系企業が優秀な人材を採用できないという問題は、現地ではもちろん認識されていますが、それを変えようとすると「本社採用」と「現地採用」の国籍差別ばかりか、日本的雇用の根幹である終身雇用や年功序列にも手をつけざるを得ないので、欧米企業の人材供給源となる役割を甘んじて受け入れるほかないのです。

 将棋や囲碁のチャンピオンすらも打ち負かすようになったAIに象徴されるように、テクノロジーの進歩を止めることはできませんから、さまざまな社会の軋轢を生みながらも、知識社会化はこれからも加速度的に進んでいくでしょう。だとしたら、次のきわめてシンプルな事実(現実)を覚えておく必要があります。