「6月以降、旅行は完全に回復している」と話すのは阪急交通社の生井一郎社長。「ただし海外旅行だけだが」と付け加えるのを忘れなかった。

 観光庁が公表した7月の主要旅行業者の旅行取扱高を見ると、阪急交通社とエイチ・アイ・エスはいずれも前年同月をクリアしている。海外旅行比率が高いためだ。

 円高を追い風に海外旅行が伸びていると思いきや、旅行会社間でも明暗が分かれている。業界2位のKNT(近畿日本ツーリスト)は、7月の海外旅行を見ても前年を2ケタで割り込んでいる。企業のインセンティブ旅行(成績優秀な社員や販売店などに対して、報奨として提供する旅行)などの団体旅行が振るわないためだ。

 熾烈なシェア争いも始まっている。現に阪急交通社のカタログを見ると、同等の内容の欧州パック旅行が昨年よりも1万円安くなっているものがある。燃油サーチャージが3万円近く上がっているだけに、そうとうなディスカウントだ。

「大手の寡占化が進む」と中堅旅行会社は戦々恐々としている。

 国内旅行についても、消費者の節約疲れによる回復の兆しが見えてきた。阪急交通社の幹部は「個人客を対象とした国内ゴルフパックツアーは、9月に入って前年並み水準に急回復している」と小声で明かす。ゴルフ場やホテル、往復の交通費などを別々に取るよりも安いのが特徴で、リピーターが多いという。

 割安感やディスカウントが需要の牽引役となっているのは、レジャー施設の代表選手でもある東京ディズニーリゾートでも同様だ。運営するオリエンタルランドによれば、8月の入園者数が過去最高になったという。子どものワンデーパスポートを4100円から2050円にするなどの期間限定の値下げが奏功した。

 消費者の節約離れと自粛ムードの払拭が進む一方、価格には敏感になっている。それだけに、旅行やレジャー業界の体力勝負はさらに進もうとしている。

 また一つ、マニフェストを反故にした責任は重い。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)

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