『幸福の「資本」論』
橘玲著
ダイヤモンド社 定価1500円(税別)

 ジョブ型の特徴は、仕事に必要な能力や資格が厳密に決まっており、その基準をクリアする労働者なら誰でも代替可能なようにマニュアル化されていることです。そのため同じ能力・資格で安く働く労働者(たとえば移民)がいれば、いまの社員を解雇して彼らを雇うのが経済合理的であり、中国やインドなど新興国に同じ能力・資格の人材が集まっていれば工場ごと移転するのがより合理的ということになります。

 それに対してメンバーシップ型は、その名のとおり「メンバー」を中心に仕事が成立している会員制組織のことです。そこでは正会員(正社員)と非会員(非正規社員)の身分が厳密に定められ、正社員には組織(イエ)の仲間と和を保ちながら、あらゆる職務(ジョブ)に対応できる能力が求められます。このような人材は便利ですが、その能力は(たまたま入社した)特定の会社に特化しているので汎用性がありません。終身雇用と年功序列で収入を安定させることは、他社の仕事との代替可能性(転職可能性)を放棄したことへの代償なのです。

 サラリーマンの働き方は、スペシャリスト(専門家)に対して「ゼネラリスト」と呼ばれますが、これは「サラリーマン」と同じく和製英語で海外ではまったく通じません。ジョブ型の組織はスペシャリストの組み合わせでできていますから、さまざまなジョブを横断するゼネラリストはそもそも存在しないのです。

 ジョブ型とメンバーシップ型はそれぞれ一長一短がありますが、最近では日本型経営への風当たりがますますきびしくなってきました。

 ひとつは、「非正規社員」が日本にしかない特殊な制度で、同じ仕事をしても給与が異なるのは「身分差別」ではないかと、ILO(国際労働機関)など国際社会から疑惑を向けられていることです。安倍政権が「同一労働同一賃金」の導入に必死になるのは、従軍慰安婦問題につづいて「日本は差別社会」とのレッテルを貼られるのを避けようとしているからですが、この話はこれまでずいぶん書いてきたのでここでは繰り返しません。

「身分差別社会」日本

 欧米の会社はスペシャリストとバックオフィスが厳密に分かれているので、投資銀行家やプライベートバンカーは医者や弁護士と同じく、会社の屋号を借りている自営業者です。彼らの報酬は成果主義で決まり、儲かれば社長以上の報酬が支払われますが、損失を出せば即解雇です。しかしこれは「非情」ということではなく、自営業者に雇用保障がないことを考えれば当たり前の話です。

 ところが日本の会社ではスペシャリストとバックオフィスの仕事が一体化していて、専門的な仕事をする社員と、マックジョブしかやらない社員がまったく同じに扱われるという奇妙なことになっています。これが「サラリーマンは“職業”ではなく“身分”である」という意味なのですが、働き方がグローバル化するにつれて機能不全を起こすのは当然です。

 本質的に自営業者であるスペシャリストを、バックオフィスと同じマニュアルで働かせることはできず、マックジョブであるバックオフィスを、スペシャリストと同じ成果主義で評価することはできません。こうして能力のあるスペシャリストは、自分の仕事がバックオフィスと同じにしか評価されない(頑張っても報われない)ことに愛想をつかしてさっさと会社を辞めていき、社内には「バックオフィスより高度な仕事をしているものの、スペシャリストとしての知識や技能を持たない」中途半端な人材が滞留していきます。これが、日本の会社で「ゼネラリスト」と呼ばれるひとたちです。