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楠木建 ようするにこういうこと

経営はすべて特殊解。
抽象化して本質をつかまなければ意味がない。

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第3回】 2011年10月31日
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 一時期ビジネス誌などで、「垂直統合モデルは終わり、これからは水平分業だ」という論調をよく見かけました。一方で、「やはり垂直統合モデルに回帰すべき」みたいな話もあります。どちらの「ビジネスモデル」がいいかという話なのですが、これほど不毛な議論はありません。

 確かに過去のパソコン業界では、水平分業の海外メーカーは成功して、垂直統合の日本メーカーは失速しました。それは事実です。とはいえ、個別の企業の戦略や指針を検証するうえで、「垂直か水平か」という切り口では、ザルの目が粗すぎます。とても重要な事象をすくい上げることはできません。なぜか。当たり前の話ですが、経営というのはケースバイケース、すべて特殊解だからです。

 かつてのパソコン業界でこうした変化が起きているのと同じ時期に、ファッション・アパレル業界では逆の動きがありました。従来はデザイン、製造、物流、販売といった機能を別々の会社が担う水平分業が普通でしたが、そんななか垂直統合モデルのZARAが表れ、急成長したのです。

 ファッション業界では春夏と秋冬、年の2回の商戦があります。文字どおり「ファッション」ですから、次の商戦で自社の商品を当てることが経営者の一番の関心事になります。とはいうものの、来シーズンの流行を当てるのは非常に難しい。パドックで馬を見て馬券を買っているようなもので、当たればでかいが、外すことも少なくない。

 ZARAが偉かったのは、「第3コーナーで馬券を買う」という戦略を構想したことにあります。つまり、流行を予測するのではなく、すでに流行しはじめたものをいち早く取り入れてつくって売れば当たる確率は高い、という戦略です。「何が売れるか考えてつくる」のではなく「売れているものをつくれば売れる」という発想の転換です。脳を使わずに「反射」で勝負するという話です。それを実践するために、製造や物流などの機能を内部化し、垂直統合を強力に進め、ものすごくサイクルの早いサプライチェーンを構築しました。

 パソコン業界とファッション業界、結果的に正反対なモデルが成功を収めました。だから垂直とか水平とか、アウトソーシングとか自前主義とか、どっちが優れているかを語っても、それ自体ではあまり意味がないのです。その事業に固有の文脈の中で考えなくてはなりません。

 一橋大学の沼上幹さんが「カテゴリー適応」という言い方をしていますが、何事もカテゴリーに当てはめて安直に納得してしまうという思考様式、これが諸悪の根源です。「この会社はなぜうまくいっているのか?」という疑問に対し、「水平分業だから」とか、「この会社はグローバル化に熱心だから」とか答えたところで、「なぜ」うまくいっているのか、に答えたことにはなりません。とかく忙しい世の中ですから、手っ取り早いカテゴリー適応に人々が流れてしまうのはよくわかります。しかし、百害あって一利しかなし、です。ある会社の成功なり失敗の要因を探るなら、その事業の背後にある戦略ストーリーを深く見る必要があります。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


楠木建 ようするにこういうこと

本格経営書として異例のベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』の著者、楠木建一橋大学大学院教授が、日々の出合いや観察からことの本質を見極め、閉塞を打ち破るアイデアを提言。
 

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