復興を蝕む「見えない課題」を掘り出すために

東北が復興できるかどうかは『見えない課題』を発掘できるかどうかなんだ。被害が目に見えるうちはいい。それが見えなくなったときに、市民は自らの課題を発見し、それに立ち向かうことができるような仕掛けを作っておかないといけない」

 加藤哲夫氏はそう言い残して、世を去った。第一回で登場した渡辺一馬が恩師と仰いだ人物でもある。余命いくばくもないぎりぎりの状況で、復興の課題を洞察し、ホワイトボードにアプローチを組み上げていく彼の気迫に、僕は圧倒された。

 加藤氏の言葉が意味するのは、「ニーズ」という言葉を改めて考えてみる必要がある、ということに他ならない。

「いま」、「ここ」にあるニーズだけを見ていていいのか?

 そう問いかけていたのではなかろうか。

 振り返ると、やはり、鹿島の被災者の生活への洞察は参考になる。被災地に入ってから、ほんのわずかな間に、満たされていない重要なニーズを見い出し、それを事業に変えようとしたのだ。

 鹿島の目は、さらに先をも見通している。「高齢者の支援はどうなってるの? 東北の人口を考えれば、最初に考えるのは高齢者のことじゃないの? 人口の割合を考えてみなよ? 多いのは子どもじゃなくて、高齢者。子どものことばっかり考えてるNPOやNGO、多くない?」

 僕が鹿島と最初に出会った場所は、鹿島が震災孤児となった子どもたちをケアしたり学習サポートをする民家だった。会釈をする鹿島の顔や、子どもたちの笑顔、そこから深い信頼関係が見えてくる。それは鹿島が、避難所や仮設住宅に通い、丹念に関係を築いた結果だった。

 彼女の厳しい口調からは、だれもが気づかないような「見えない課題」をズバズバと言い当て、迷うことなく正面から取り組んでいるように見えるかもしれない。けれどもそれは、現地に入り込み、関係を築き、ニーズを抱える人の声に向き合った末の結果だった。この彼女の姿勢にこそ、被災地の復興だけではなく、非・被災地にいる我々が「社会の課題を解決していく」ためのヒントが眠っているのではないのだろうか。鹿島の動きは今後も追い続けたい。

  震災被害が広域に及んだこと、そして、地震だけではなく津波、原発、加えて、風評被害やエネルギー問題と多様な被害をもたらしたことによって、各地でまったく異なる状況が生まれてしまった。加えて、生存者の救出、安全な場所への避難、ライフラインの復旧、仮設住宅の建設、地域コミュニティの再生、そして、雇用や産業の復活。この数か月ですら、刻々とニーズは変化してきた。
  これは、日本の社会のあり方そのものにも言えることだ。社会はその多様性と変化を考慮せずして、変えることすらおぼつかない。我々はこの東北の激的な変動から、何を学べるのだろうか。次回は、気仙沼市に単身乗り込んだ学生が、驚異的な成果をあげた事例を取り上げよう。

 

加藤徹生(かとう・てつお)
1980年大阪市生まれ。
社団法人wia代表理事/経営コンサルタント。
大学卒業と同時に経営コンサルタントとして独立。以来、社会起業家の育成や支援を中心に活動する。 2009年、国内だけの活動に限界を感じ、アジア各国を旅し始める。その旅の途中、カンボジアの草の根NGO、SWDCと出会い、代表チャンタ・ヌグワンの「あきらめの悪さ」に圧倒され、事業の支援を買って出る。この経験を通して、最も厳しい環境に置かれた「問題の当事者」こそが世界を変えるようなイノベーションを生み出す原動力となっているのではないか、という着想を得、『辺境から世界を変える』を上梓。
2011年6月末より、東北の復興支援に参画。社会起業家のためのクラウドファンディングを事業とする社団法人wiaを、『辺境から世界を変える』監修者の井上氏らとともに9月に立ち上げた。
twitter : @tetsuo_kato

 

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「被災地復興のために我々が為すべきことが、ここにはある」

『辺境から世界を変える――ソーシャルビジネスが生み出す「村の起業家」』

【第2回】<br />被災地に眠る「見えない課題」をいかに発掘するか?<br />バラバラになった人々を<br />「コミュニティバス」でつなぐ鹿島美織

「何もないからこそ、力もアイデアもわくんだ!」(井上英之氏)
先進国の課題解決のヒントは、現地で過酷な問題ー貧困や水不足、教育などーに直面している「当事者」と、彼らが創造力を発揮する仕組みを提供するため国境を越えて活躍する社会企業家たちが持っている。アジアの社会起業家の活躍を通して、新しい途上国像を浮き彫りにする1冊。
そして著者は被災地へ。
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