「共感」と「同意」は区別する

【傾聴の対話例】

相談者(以降「相」):「傾聴を実践する上で、相手の話に共感しながら聞くことが大事だと言われていますが、上手くできないときがあります。相手の言っている意見が、どうしても正しいと思えず、頷くことができなくなってしまうんです」

聞き手(以降「聞」):「なるほど。もう少し具体的に言うと、それはどんな場面ですか?」

相:「たとえば、ある企画の方向性について、部下が案をまとめてきたときなどでしょうか。私の経験に照らすと、そのやり方だとうまくいかないだろうと思うことが多いんです。そうなると、うんうんとは頷けなくなる。突っ込みどころがいっぱいあって…」

聞:「つまり、部下の提案するやり方に賛成できないわけですね」

相:「まぁ、そういうことです。結局、あーしたら、こーしたらといろいろな指示を出してしまい、任せたはずの案件なのに、誰が進めているのかわからなくなってしまいます。その結果、おそらく部下もがっかりしているだろうと思います。部下のやる気は削ぎたくないのですが、明らかに足らないものがある企画に、上司としてGOサインは出せません」

聞:「もちろんです。お話を聞いていて、ひとつ気がついたことがあるのですが、よろしいですか?」

相:「はい。なんでしょう?」

聞:「共感と同意が混ざってしまっているように聞こえてきました」

相:「共感と、同意?」

聞:「はい。共感とは、相手がどう感じているかを理解すること。少し広げると、どういう背景・経緯・理由で現在の考えに至ったかについて理解し、それを態度で示すということです」

相:「ええ」

聞:「一方で、同意とは、話し手の考えに賛成すること。文字通り、意見を同じくすることです。ですから、先ほどお話いただいたのは、同意できない例だったのではないでしょうか。それは、共感とは異なります。共感では、同意・賛成する必要はありません。相手がどうしてその考えに辿り着いたかに耳を傾け、その経緯を理解することです。“なるほど、だからそういう結論になったのか”というセリフになって出てくることになります」

相:「共感では、相手の意見に賛成しなくてもよい? つまり、考えが互いに違っても共感はできるということ…」

聞:「そのとおりです。提案された結論にではなく、プロセスに対して一定の理解を示すことだと言ってもいいかもしれませんね」