日本総合住生活(JS)は1961年設立。団地やマンションなど集合住宅の維持管理を主軸に、修繕や設備管理を通じて住環境を支えてきた都市再生機構(UR)のグループ企業だ。

第30回を迎えた「読後感想文コンクール」の出発点は96年。同社創立35周年の記念事業の一環として、中学校の「技術・家庭科」の副読本『考えよう!わたしたちの快適な住まい』を発行したことに始まる。

同社の執行役員(CSR推進、安全品質管理)の一ノ瀬聡氏は、当時の狙いについて説明する。
「副読本を活用した授業を通じて中学生に住まいに対する正しい理解と関心を持ってもらい、ご家庭でも快適な住まいづくりについて話し合っていただけるよう企画したものです」

「住まいとは何か」を伝える副読本。30年の無償配布と感想文コンクール日本総合住生活 執行役員
(CSR推進、安全品質管理)
一ノ瀬 聡

つまり、社会貢献と自社事業の認知向上を目的としたのだ。第1回の応募は1429作品。それが今回は、4倍にも上る5790作品にまで拡大している。30年という時間の中で、単なる広報施策ではなく、教育現場で活用される教材として認知され定着してきた。

「住まい方」の大切さを重視 作品にも見られる中学生の鋭い感性

「この30年で社会構造は大きく変化しました。インターネットやスマートフォンの普及により情報環境は一変し、働き方も多様化。少子高齢化は急速に進み、災害リスクへの意識も高まっています。住宅を取り巻く課題は、単なる建物管理にとどまらず、地域コミュニティーや高齢者支援、環境配慮など複合的になっています」と、一ノ瀬氏は時代に伴う環境変化を指摘。

加えて「企業を取り巻く環境もコンプライアンスやガバナンスの徹底、SDGsへの対応など、社会的責任の在り方が問われています」と説明する。

一ノ瀬氏は「こうした変化に合わせ、その時代における人々の暮らしや社会全体の価値観を副読本に反映し、中学生に伝えることで、長期にわたり、住宅の維持管理や修繕に関わってきた企業としての役割を果たしてきたと思います」と副読本配布の意義を語る。

そもそも、この副読本がユニークなのは、建物の構造といったハード面にとどまらず、「住まい方」というソフト面にも光を当てている点だ。

住まいの役割として、「雨、風などの自然から身を守る場」というだけでなく、「家族のだんらん」や「地域の人との語らい」の場であり、人とのつながりで成長する「ふるさと」であることを強調した内容になっている。

集合住宅では、物理的な設備以上に、「人と人との関係性」が住環境の質を左右する。お互いの生活を理解し、ルールやマナーを守り、コミュニケーションを取ることが大切だ。今回寄せられた読後感想文の中で、「人と人がつながっていくことが理想の姿」と表現した中学生も多くいた。

一ノ瀬氏は「副読本が中学生の情操教育の一助となっていることを実感し、企画・発行者として喜びを得た瞬間でした」と振り返る。

この副読本を30年にわたり監修し、読後感想文コンクールの審査委員長も務めてきたのが東京学芸大学名誉教授の小澤紀美子氏である。家庭科教育、住教育の分野で長年研究と教育行政に携わり、学習指導要領の議論にも関わってきた教育研究者だ。学校現場と政策の双方を見てきた立場から、副読本の歩みを見守ってきた。

「住まいとは何か」を伝える副読本。30年の無償配布と感想文コンクール2026年2月上旬に行われた審査会の様子。左から2人目が、委員長で東京学芸大学名誉教授の小澤 紀美子氏

小澤氏は「『住む』ことは、人と人、人と物、人と空間、人と環境など、さまざまな関わりやつながりの中で成り立っています」と指摘、生徒たちが副読本を通じて「住まい」への理解を深めることを期待してきたという。

副読本は毎年約20万部が無償配布されている。応募作品は800字以内、「快適な住まい」の在り方がテーマとなっている。

「800字以内できちんと書くことは大変なことです。自己承認欲求を満たすだけならSNSで『いいね』をもらえればいいのかもしれません。でも、それだけではない論考や知見がここにはあります」(小澤氏)

例えば、集合住宅の生活音問題について「知っている人の声だと不快に感じない」と分析し、日頃のコミュニケーションの重要性を説く作品や、祖父の家の取り壊しを機に伝統的な「欄間」の歴史を調べ、それを自分の家に受け継ごうとする作品があった。

いずれも中学生ならではの、鋭い感性と探究心に満ちているといえよう。

同時に、小澤氏は「これだけの文章が書けるのは、学校の技術・家庭科の先生方のご努力があってこそ。本当に感謝したい」と教育現場への敬意を述べた。さらに、30年にわたり監修を続けてきた立場から「この取り組みをぜひ今後も続けてほしいと思います」と継続の意義についても強調した。

中学生人口は86年の約610万人から2024年には約314万人へと減少している。

一ノ瀬氏は「今のわれわれが保有する知恵や技術は、次の世代に伝えることで、初めて受け継がれていきます。中学生という多感な時期に住環境を考えることは、より良い生活や社会づくりにつながると思っています」と語る。

地域を支える「次世代の育成」 支店長は地元中学で表彰状を授与

同社は、団地美化の支援や防災訓練支援、児童の登下校見守り活動など、地域と連携した取り組みも行っている。副読本プロジェクトは、そうした地域を支える次世代の育成という側面も持つ。

入賞した生徒には、全国各地の支店長が直接中学校を訪問して表彰状を授与する。これも地域密着と「顔の見えるCSR」を重視したものだ。

「住まいとは何か」を伝える副読本。30年の無償配布と感想文コンクールJS支店長による地元中学校での表彰状授与の様子(左・金賞、右・銅賞)

一ノ瀬氏は「AIが台頭し時代が変わっても、顔を見て話すことの価値はずっと揺らぐことがないものと思っております」と、現場を大切にする同社ならではの取り組みの意義を語る。

将来的には、副読本を読んだ生徒が同社のスクエアJS(同社が運営する技術開発・緊急対応・教育訓練を一体化した複合施設)などを見学し、内容を体感できる企画も検討するという。

「将来、教育現場もデジタル化が進み、発信ツールも変わるかもしれません。しかし、現場の従業員と協力会社による実直で心を込めた仕事はなくならないと信じています。これらの取り組みを通じて、生徒たちが住宅関係の仕事に就き、建設・住宅管理業界の『救世主』になってくれる未来に希望を抱いています。また手前勝手ながら、その中でわれわれの仲間となってくれる方がいたらこの上ない喜びです」(一ノ瀬氏)

持続可能な社会の実現は、制度や技術だけでなく、生活者一人一人の判断に委ねられる部分も大きい。JSが住まいを起点に考える機会を中学生に提供してきた30年は、企業が社会と向き合う一つの実践例といえよう。

●問い合わせ先
日本総合住生活株式会社
本社 〒101-0054 東京都千代田区神田錦町1-9
https://www.js-net.co.jp/