東日本大震災の影響による電力不足を受け、今年の夏は大企業を中心にサマータイムや木金休業、在宅勤務などの節電対策が大々的に講じられた。当初は、節電への貢献や生活スタイルの大きな変化に不安や疑問の声もあったようだが、実際に節電効果があったうえ、「規則正しい生活ができるようになった」「子どもと過ごす時間が増えた」「仕事にメリハリが出た」など、生活面で良い影響も現れた。9月末で一段落はしたものの、今回の節電に伴うワークスタイルの変化は、それまでなかなか日本に浸透しなかった「ワークライフバランス」を根付かせるきっかけになり得るのか。働き方に関する問題に詳しい、法政大学キャリアデザイン学部・武石恵美子教授に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
労働省(現厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2006年4月より法政大学。2001年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程修了。博士(社会科学)。専門は人的資源管理、女性労働論。兼職として、厚生労働省「労働政策審議会労働条件分科会最低賃金部会」など。著書に、『男性の育児休業』(共著、中公新書)、『ワーク・ライフ・バランスと働き方改革』(編著、勁草書房)など。
――大震災に伴う電力不足を受け、大企業を中心にサマータイムや木金休業、在宅勤務、長期夏季休暇な ど働き方の変化を伴った節電対応策が導入された。この取り組みによって、ビジネスパーソンの生活にどのような変化が起きたか。
事例を聞いてみると、“外部の圧力”によってこれまでと異なる働きを強いられたことで、自分の生活を見直し、「子どもと過ごす時間が増えた」など生活に変化が起きている人も少なくないようだ。
もともと日本では、「仕事が終わったとき=終業時間」と考える人が多く、「何時までに仕事を終わらせる」という時間から逆算する発想、つまり「時間を区切って働く意識」があまりなかった。育児中の女性などは、時間を意識して効率的な働き方をしている人が多かったが、今回の節電対策ではそれが社会全体に広がる1つのきっかけになると期待している。
なぜ日本でワークライフバランスは根付かなかったか
原因は企業ではなく、「労働者」にあった!
――国は少子化を背景に「職業生活」と「家庭・子育て」のバランス実現のため、平成19年「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)憲章」・「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を策定、官民が一体となった取り組みで、ワークライフバランスを提唱してきた。しかし、あまり根付いてこなかったのが実態のようだが。
憲章が出る前に比べると、「ワークライフバランス」という言葉が市民権を得て、経営者や人事採用者の意識としては「改革」の方向へ徐々に進んでいるように思う。しかし、働く側の働き方改革についての切迫度が高くないので、社会を動かす原動力になっていない。
海外は、日本に比べ労働時間平均は短い傾向にあったが、男女ともに家庭との両立を図りながら働くことを希望する人が多く、働く側から働き方を変えてほしいという声が上がり、それが人事制度を動かしてきたという面がある。一方、日本では、政府が音頭をとり、経営者の理解がある企業や女性が多い職場で取り組みが進んだものの、それを「迷惑」と捉える人もおり、働く側のワークライフバランスに対するニーズの温度差が大きい。つまり、働く人たちからの切実な要望があがってこなかったのが海外と大きく異なる点で、日本でワークライフバランスがなかなか定着しない要因である。