「定石どおりに進めていけば誰でも起業できる」と断言する山口揚平氏(第1回)。その「定石」の最初が「コンセプト作り」です。自分の思いをきちんと言語化し、「時流」に乗ったコンセプトを作れれば、起業は9割成功できると言います。その詳細を聞きました。

時流を見極めれば「豚」だって成功する起業に必要な事業コンセプトの考えかた図1 事業創造フレームワーク
連載第2回、第3回では、事業創造フレームワークの1「準備期のコンセプト」について解説します。
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経営が辛いときに支えてくれる
3つの概念

時流を見極めれば「豚」だって成功する起業に必要な事業コンセプトの考えかた山口揚平(やまぐち・ようへい) 早稲田大学政治経済学部(小野梓奨学生)・東京大学大学院修士。1999年より大手外資系コンサルティング会社でM&Aに従事し、カネボウやダイエーなどの企業再生に携わったあと、独立・起業。企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供する。2010年に同事業を売却したが、のちに再興。クリスピー・クリーム・ドーナツの日本参入、ECプラットフォームの立ち上げ(のちにDeNA社が買収)、宇宙開発事業、電気自動車(EV)事業の創業、投資および資金調達にかかわる。その他、Gift(ギフト:贈与)経済システムの創業・運営、劇団経営、世界遺産都市ホイアンでの8店舗創業(雑貨・レストラン)、海外ビジネス研修プログラム事業、日本漢方茶事業、医療メディア事業、アーティスト支援等、複数の事業、会社を運営するかたわら、執筆、講演活動を行っている。専門は貨幣論、情報化社会論。 NHK「ニッポンのジレンマ」論客として出演。テレビ東京「オープニングベル」、TBS「6時のニュース」、日経CNBC放送、財政再建に関する特命委員会 2020年以降の経済財政構想小委員会に出演。慶應義塾高校非常勤講師、横浜市立大学、福井県立大学などで講師をつとめた。 著書に、『なぜか日本人が知らなかった新しい株の本』(ランダムハウス講談社)『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座』(日本実業出版社) 『世界を変える会社の創り方』(ブルー・マーリン・パートナーズ)『そろそろ会社辞めようかなと思っている人に、一人でも食べていける知識をシェアしようじゃないか』(アスキー・メディアワークス)『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』(ダイヤモンド社)『10年後世界が壊れても君が生き残るために今身につけるべきこと』(SBクリエイティブ)などがある。

 事業創造の最初の段階はもちろんコンセプト作りにある。この段階はとても辛い。なぜなら、「事業という現実」と「事業を興そうとする志」は相反するものだからだ。

 事業とは何だろうか。一言でいえば、それは顧客創造、つまり顧客を創ることである。ここでいう「顧客」とは「他人」のことであり、志とは「自分」ごとである。つまり、事業の目的である顧客創造と、事業を創ろうという自分の中にあるエネルギー(志)はまったく違うところにある。他人と自分、そのかけ離れた2つをすり合わせた「交点」に事業コンセプトが生まれることになる。この交点を探るのはとても難しいと感じるだろう。

 志を持つに至るまでに、人は強烈な原体験を持っている。それらは固い記憶となってみずからの心に沈殿し、価値観や行動パターンを縛る。しかし事業は他人への貢献を前提とするのだから、まずは自己の志を一旦言語化したあとに、脇に置き、客観的な視点をもってプランを練り直さなければならない。それがコンセプト作りの本質である。

 起業家ならばみずからを客観視しなければならないし、プロフェッショナルならば客観的に起業家の思考を整理し、いさめなければならない。でも焦らずにゆっくりとやればいい。友人や先輩に相談に乗ってもらうのも有効だ。案外、近しい人は客観的に観ているものだ。人に頼ろう。
 
 まず事業創造にあたって、志、すなわち事業創造に至った「思い」を言語化する。どんなに優れたビジネスモデルを考案し、かつ大きなマーケットが存在しているとしても、事業に魂がこもらなくては、いずれ破綻する。事業には骨子が必要なのだ。

 その骨子は、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の3つを明確化(言語化)させることで明確になる。経営が辛いときに最後に支えてくれる。それぞれの定義は以下のとおりである。

  • ミッション:使命のこと。星のかなたにあり、達成できるものではない。日々意識する。
  • ビジョン:明確に達成すべき目標のこと。 例)売上100億円
  • バリュー:価値観・あり方のこと。戒律・憲法・訓示・クレドなど。

 まずミッションは、どのような使命のもとで活動するのかを示すものである。しかし、ミッション自体は大きな方向性を表したものであるため、達成したり、到達できるものではない。

 ミッションは具体的な目標に落とし込む必要がある。それがビジョンである。たとえば、「3年後までに売上を100億円にする」「10年以内に〇〇という問題の△△という指標の値を30%以下にする」といった形で表現される。具体的な期日や数値が盛り込まれていると、アクションを考えやすい。

 そして、バリューとは、ミッションを意識し、ビジョンを達成するために、どのような考え方のもとで日々進んでいけばいいのかを表した価値観のことである。戒律として、会社やチームの行動を律するものとなる。

 上記の3つの関係を図に示したものが図2である。この思いを形にする過程では、事業家やコアメンバーが何度も深い議論をしなければならない。合宿なども有効である。

時流を見極めれば「豚」だって成功する起業に必要な事業コンセプトの考えかた図2 ミッション・バリュー・ビジョンの関係図
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