「定石どおりに進めていけば誰でも起業できる」と断言する山口揚平氏(第1回)。その「定石」の最初が「コンセプト作り」です。自分の思いをきちんと言語化し、「時流」に乗ったコンセプトを作れれば、起業は9割成功できると言います。その詳細を聞きました。
連載第2回、第3回では、事業創造フレームワークの1「準備期のコンセプト」について解説します。
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経営が辛いときに支えてくれる
3つの概念
事業創造の最初の段階はもちろんコンセプト作りにある。この段階はとても辛い。なぜなら、「事業という現実」と「事業を興そうとする志」は相反するものだからだ。
事業とは何だろうか。一言でいえば、それは顧客創造、つまり顧客を創ることである。ここでいう「顧客」とは「他人」のことであり、志とは「自分」ごとである。つまり、事業の目的である顧客創造と、事業を創ろうという自分の中にあるエネルギー(志)はまったく違うところにある。他人と自分、そのかけ離れた2つをすり合わせた「交点」に事業コンセプトが生まれることになる。この交点を探るのはとても難しいと感じるだろう。
志を持つに至るまでに、人は強烈な原体験を持っている。それらは固い記憶となってみずからの心に沈殿し、価値観や行動パターンを縛る。しかし事業は他人への貢献を前提とするのだから、まずは自己の志を一旦言語化したあとに、脇に置き、客観的な視点をもってプランを練り直さなければならない。それがコンセプト作りの本質である。
起業家ならばみずからを客観視しなければならないし、プロフェッショナルならば客観的に起業家の思考を整理し、いさめなければならない。でも焦らずにゆっくりとやればいい。友人や先輩に相談に乗ってもらうのも有効だ。案外、近しい人は客観的に観ているものだ。人に頼ろう。
まず事業創造にあたって、志、すなわち事業創造に至った「思い」を言語化する。どんなに優れたビジネスモデルを考案し、かつ大きなマーケットが存在しているとしても、事業に魂がこもらなくては、いずれ破綻する。事業には骨子が必要なのだ。
その骨子は、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」の3つを明確化(言語化)させることで明確になる。経営が辛いときに最後に支えてくれる。それぞれの定義は以下のとおりである。
- ミッション:使命のこと。星のかなたにあり、達成できるものではない。日々意識する。
- ビジョン:明確に達成すべき目標のこと。 例)売上100億円
- バリュー:価値観・あり方のこと。戒律・憲法・訓示・クレドなど。
まずミッションは、どのような使命のもとで活動するのかを示すものである。しかし、ミッション自体は大きな方向性を表したものであるため、達成したり、到達できるものではない。
ミッションは具体的な目標に落とし込む必要がある。それがビジョンである。たとえば、「3年後までに売上を100億円にする」「10年以内に〇〇という問題の△△という指標の値を30%以下にする」といった形で表現される。具体的な期日や数値が盛り込まれていると、アクションを考えやすい。
そして、バリューとは、ミッションを意識し、ビジョンを達成するために、どのような考え方のもとで日々進んでいけばいいのかを表した価値観のことである。戒律として、会社やチームの行動を律するものとなる。
上記の3つの関係を図に示したものが図2である。この思いを形にする過程では、事業家やコアメンバーが何度も深い議論をしなければならない。合宿なども有効である。
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