「発生時点処理」が改善の原則

「改善の成果として紙代の削減に注目されることは多いのですが、本質はそこではなく、従来の業務プロセスを業務の発生と同時に成果物を作るという業務プロセスに変更したことにあります。これをHIT活動の用語で『発生時点処理』と言います」(田代取締役)。

 ムダを改善する原則は、HIT法では2つしかない。第一に、「その業務をやめる」こと。第二に、もしやめられないならば、「発生時点処理」を適用することだ。会議の事例の場合、会議と同時に提案資料を作成するという発生時点処理にしたことで、前後のプロセスを廃止できたわけだ。

 ある会社では、システムへの入力業務について、窓口の担当者が受け取り、中間部署で集計をして、入力担当者が入力する、という3段階の工程を踏んでいた。これも発生時点処理の原則で改善され、受け取った人が直接入力するというかたちに変更された。

HIT法でコミュニケーション不足によるムダを発見

 次は、部署間、担当者間のコミュニケーションが取れていないことに起因するムダだ。

 ある会社のある部署では、取引先別に伝票をまとめてホチキス止めをして、次の部署に渡す業務が習慣になっていた。そのやり方が親切と考えられていたからだ。しかし実際には、受け取った部署はホチキスを外してからファイリングをしていた。この方法を改善したことで、ホチキス止めにかかっていた1回20分程度の時間が短縮された。

 またある会社では、経営者に渡すための月次報告書を、担当者が時間をかけてパワーポイントで作成していた。報告書は、課長や部長の承認を得てから経営者に提出されていた。一方の経営者は、月次の数字は簡素なデータでもいいから、迅速に上げてほしいと考えていた。この会社では、HIT活動によってその意識の違いに気づき、報告書の提出をやめ、経営者には直接システム上でデータを見てもらう方式にした。

 いずれもの事例も、担当部署間、あるいは経営者と部下の間でコミュニケーションが十分に取れていれば、すぐに改善できたことかもしれない。しかし実際は、HIT活動をするまで気づかなかったのだ。

 業務の改善を妨げる要因には3つある。「習慣」「制約条件(予算がないなど)」「感情」だ。習慣化されて目的がわからなくなっている業務は試しにやめてみること。制約条件はまず無視してから改善案を考えること。そして、他人から指摘され、抵抗感を覚えてしまう前に自分から改善すること。この原則を頭に入れておくことで、日々の業務のムダから改善案を見つけることができる。