野田政権は震災の復興財源として、個人負担となる所得税や住民税等の税の引き上げを決定した。また、深刻な財政問題の解決や加速する少子高齢化のなかで社会保障財源を確保するため、消費税についても2010年代半ばまでの段階的な税率引き上げが本格的に議論されようとしている。では果たして、民主党政権が行おうとしている「復興増税」や「税と社会保障の一体改革」は、欧州発の景気後退懸念があるなかでの経済政策としてそれぞれ相応しいものなのか。その妥当性について、駒澤大学経済学部・飯田泰之准教授が検証する。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 原英次郎、林恭子)

なぜ増税前に「資産取崩」「国債発行」をしないのか
被災者を“人質”にした野田政権の増税論議

――野田政権は復興財源捻出のため、2012年度から所得税、法人税、たばこ税の税率引き上げ、そして13年度からは住民税率の引き上げを断行しようとしている。この臨時増税案を含めた復興財源確保の手法をどう評価しているか。 

なぜ野田政権はこれほど増税論議を急ぐのか<br />あなたが知らない「正直者が馬鹿を見る増税」の内幕<br />――駒澤大学・飯田泰之准教授インタビューいいだ・やすゆき/駒澤大学経済学部准教授。エコノミスト。1975年東京生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学大学院博士課程単位取得中退。内閣府経済社会総合研究所、参議院第ニ特別調査室、財務省財務総合政策研究所等で客員を歴任。現在は駒沢大学経済学部准教授を務める。主な著書に『経済学思考の技術』(以上、ダイヤモンド社)、『ダメな議論』(ちくま新書)、『世界一シンプルな経済入門 経済は損得で理解しろ』(エンターブレイン)などがある。
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 私が考える復興財源のベストな捻出方法は、順に、資産取り崩し、自然増徴による長期償還、消費税の増税で、最も相応しくないのが所得課税の増税だ。ワーストの方策をとったともいえる今回の復興増税案に、私は反対している。

 実際、野田政権は有価証券や出資金の資産整理の議論をせずに、増税一直線に突き進もうとしている。今、メディアも霞ヶ関も増税一色の状態にある。それは、増税を伴わない財源捻出方法、すなわち国有資産売却などの資産整理を行えば、資産を管理する公的部門、関連法人の廃止・縮小を促しかねないからだろう。なぜ資産整理ではなく増税が優先されるのか落ち着いて考える必要があるだろう。

 たとえ資産の取り崩しが短期的に困難であったとしても、「一国も早く被災地へお金を」という世論に政治が応えるならば、増税を行う前に緊急的な措置として、しばらくの間は借り入れ、つまりは国債で支えればよい。毎年約40兆円の国債を発行しているのだから、復興債10兆円が増えたとしても大きな問題ではない。償還財源については、震災から落ち着きを取り戻しはじめた来年や再来年以降に、議論をしっかりと行えば済むはずである。それにもかかわらず、「増税法案が通らないと、被災地に復興費用を出せない」とでも言わんばかりの姿勢は、被災者を人質に取った増税論議といえる。

 そもそも東日本大震災は数百年に1度とも言われる大災害である。保険の考え方を当てはめれば、めったに起こらない突然のショックに対応する場合、普通は最初に資産(貯金)の取り崩しを行う。貯金がないならば、次に借金を考えるだろう。例えば、もしあなたが交通事故にあって怪我をした場合を考えてほしい。足を骨折してからバイトを始める人はいないはずだ。ひとまずは資産を取り崩すか、借金をする。しかし、それをしようとしないのが、いまの政府だ。