金銭などの報酬と引き換えに、性的サービスを提供する「セックスワーカー」。日本をはじめ、売春を非合法とする国ではセックスワークは職業として認められていないが、現実は違法営業が後を絶たない。また、セックスワーカーには労働者に当然認められるべき権利も保障されておらず、しばしば搾取の対象になっているという問題も指摘されている。このようなジレンマを打開するうえで有効視されているのが、「売春合法化」だが、やはりそう簡単な問題ではないという。(フリーライター 末吉陽子)

アムネスティの調査書が浮き彫りにする
セックスワーカーが直面している危機

「売春合法化」は虐げられたセックスワーカーたちを救えるか売春地区「飾り窓」で知られるオランダは、2000年に売春を合法化した。セックスワーカーの劣悪な労働環境や人権侵害を向上させることを目的とした取り組みだ

 売春合法化の是非を考える前に、セックスワーカーが抱えるリスクを紹介したい。

 2016年5月26日に国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が、人権侵害と虐待からセックスワーカーを守るため、各国政府に対して「合意に基づくセックスワークの非犯罪化」を勧告するべく方針を示した。同時に、世界4地域の調査報告が公開されたが、そこにはセックスワーカーが直面する危険が浮き彫りになる内容が記されている。

 たとえば、パプアニューギニアでは、セックスワークの稼ぎに依存したり、性を商売にする組織を作ったりすることは違法である。しかし、行き過ぎた警察権力が暴走する事例も少なくないようだ。

 ホームレスのセックスワーカー、モナは次のように語った。「警察は私の友だち(客)と私を殴り始めた……6人の警官1人1人が私にセックスしたの。奴らは銃を携帯しているから言うことを聞くしかなかった。裁判所に訴え出ようにも誰も頼る人はいないし。とても辛かったけれどどうしようもなかった。売春は法律違反なので誰も助けてくれない」(2016年5月26日 アムネスティ国際事務局発表ニュースより引用)

 また、ノルウェーは、買春行為は違法だが、売春そのものは違法ではないという曖昧なスタンスをとっている。しかし、客からの暴力行為に悩むセックスワーカーは後を絶たず、警察に暴力被害を訴え出た結果、家からの立ち退き強制や、国外追放されることもあるようだ。

 このほかにも、客からの暴力行為のみならず、市民を守るはずの警察官から強姦されたり、見逃す見返りに金銭を要求されたりするなど、世界的に、セックスワーカーがいかに人権の枠外に押しやられているかが見て取れる。