『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社)で大きな注目を浴びた、社会学者の開沼博。私たちがふだん見えないフリをしている闇の中へと飛び込んだ彼は、いったい何を考えるのだろうか? タブー視された世界からしか見えてこない、現代社会の実像を描き出す。
第1回・第2回は、「表」と「裏」のはざまでもがき苦しむ「売春島」の真実に迫る。連載は全15回。隔週火曜日に更新。

 「おかしなこと」から引かれる社会の「補助線」

 「おかしな島があるらしい」

 人づてにそんな話を聞いて到着した船着場。この先にどんな化け物が住んでいるのか。タイムスリップでもするのだろうか。もちろん、そんな事態は起こらなかったが、たしかにそれは「おかしな島」だった。

取り残された「売春島」に浮かぶもの昼の島にはおだやかな時間が流れている

 昼間のビーチには人が集まり、夜は遊覧船に集う家族連れ。のどかな海と静かな風。しかし、夜の始まりとともに空気は一変する。「表」の顔が一気に「裏」の顔へと反転して……。

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 これから始めようとしているのは、私たちが今生きる社会に「補助線」を引く試みだ。

 「なんか上手くいかないよな」「もっといい世界があるんじゃないか」。多かれ少なかれそんな不全感を抱えながらも、日々を生きる私たち。目の前にある社会を、私たちは捉えているようで捉えていない。「おかしなこと」が身の回りに溢れているのにも拘らず、大事に至らない限りそれに気付くことはないのだから。

 私はここ5年ほど、社会の中に存在する「おかしなこと」を視界の中に収めようと歩き回ってきた。

 「おかしなこと」の一部が偶然に多くの人の無意識から意識の中へと飛び出してきたことはあったけれども、それはあくまで「おかしなこと」の一部に過ぎない。社会の全体性を捉えうる「補助線」を一筆書きするための歩みを、そこでとめるわけにはいかない。

 「おかしな島」に映りだす像を描くことから、それを始めたいと思う。

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