「ゼロ、収支はゼロでいい。でも、来春までにそのメドがつかなければ、1つひとつ生産ラインを止めて、最後のプラズマ工場は消えることになる」。10月中旬、あるパナソニック幹部は、静かな声で覚悟のほどを明かした。
3年連続、累計約2000億円のテレビ事業の大赤字のすえに訪れた、信じたくないシナリオだった。
パナソニックは“家電の王様”であるテレビに並々ならぬ資金と技術を注いできた老舗メーカーだ。特にプラズマテレビの商品化では先頭を走り続け、2005年から累計4400億円の巨費を投じて、大阪湾岸に建設した3つのパネル工場は“聖域”だった。
しかしこの秋、最新鋭の設備を含む2つの工場で生産中止が決まり、日本最後のプラズマパネル工場もまさに“死の淵”に沈みかけている。
ある社内資料には、お家芸であるテレビにこだわらず、業務用ディスプレイとして生き残ろうとする道筋が描かれている。①学校用のタッチパネル式の電子黒板、②企業向けテレビ会議システム、③美しい映像が楽しめるシアター用など。
家電量販店を飾る華やかな“顔”でなくても、コスト優位な超大型商品を売り、せめて技術や生産設備を残したいという思い入れがにじむ。3年間でビジネスを立ち上げ、冒頭の「収支ゼロ」を支えるシナリオだ。
一方、コスト面の過酷なハードルも記されている。内部調査により、ライバルの韓国サムスンの商品はガラス基板や材料などのコストが約20%も安いことが判明。加えて「生産量が落ちるパナソニックに、部材メーカーが値上げを求め始めている」(業界関係者)。赤字のテレビ事業にさらなる“流血”を強いる可能性があり、イバラの道の果ては見えない。