「賢い大人」の愚かさ

 問題なのは、彼の言うように「はっきりものが見えるまでは、ブレーキをかける人が多くいる」ことである。ブレーキをかけるのは、往々にして経験の多い「賢い大人」たちだ。彼らは「とにかく始める」というような安易なまねはしない。失敗したときのしっぺ返しを知っているからである。

 ある優良日本企業で若手社員と未来事業のビジョンをつくったことがある。そのビジョンを社長に答申した際の言葉が忘れられない。

 社長は「私だって新規事業は立ち上がってほしい。だから、君たちの案がどれだけ確実に事業となるのか、私を納得させてもらいたいのだよ」と言った。

 実はこれこそが、イノベーションを阻害する決まり文句だ。言った本人すら、これがイノベーションの芽を摘んでいることに気が付いていないのである。

 過去の成功体験に縛られている「賢い大人」を最初から納得させることは不可能だ。もし逆に納得させられる案であったら、それはイノベーションから程遠いと考えるべきだろう。そもそも最初から未来の全貌は見えない。ザッカーバーグの言うように、行動を通して失敗と成功のサイクルを回していくしかないのだ。

 とはいえ、私自身も賢い大人側にいた。80年代に米マサチューセッツ工科大学に留学したため、インターネット技術はその黎明(れいめい)期から知っていた。だが、その社会的インパクトは全く想像できなかった。

 米ヤフーの創業者には「収入モデルを早く見つけないと早晩破綻するよ」と助言したし、米グーグルがベンチャー企業だったときは「サーチ(検索)エンジンでは事業にならない」と意見した。事業創造コンサルティングのプロ中のプロとして働いていた「大人」の予想は見事に外れた。