「我慢」がもたらすネガティブな影響とは?

 人間は物事を理解して判断したり(認知機能)、欲求を我慢したり(自制心)するが、こうした知力がつまった「タンク」は1つしかないらしい。

 何かで知力を酷使すると、別のところで頭が働かなくなってしまうのだ。

 たとえば、「絶対にいらだったり、悲しんだりしないでください」といわれて、感情を押し殺して悲しい映画を見ると、その後はおいしそうな食べ物を我慢するのも、何かを暗記するのも難しくなる。

 それだけではない。心の筋肉を酷使したあとでは、体を使ったタスク(壁に背中をつけて、空気椅子に座った姿勢をキープするなど)もうまくできなくなる。体は元気でも、精神的に疲れていると、その疲れが身体能力に影響することは研究でも裏づけられている。

 言い換えると、「心の疲労」と「体の疲労」は、われわれが考えているほど分離しているわけではないのである。

「愛に飢えて──自制は浮気にどう影響するか」(Hungry for Love: The Influence of Self-Regulation on Infidelity)という絶妙なタイトルがついた実験の話をしよう。

 この実験では、恋人がいる大学生32人に、異性(一般人に扮した研究者)とチャットルームでやり取りしてもらう。ところが、チャットを始める前に、被験者の前においしそうな料理が並べられる。被験者の半数はその料理を食べることを禁じられ、残りの半数は好きなだけ食べることが許された。

 もう想像がつくだろうか。

 食事を禁じられたグループは、チャット相手に電話番号を教える確率が高くなり、なかにはコーヒーを飲みに行こうと約束する者もいた。この研究の著者はこう結論づけている。

「週末に自制を強いられていることが原因で、浮気に走る人もいるのではないか」

 パートナーにダイエットさせようとしている人は考え直したほうがいいのでは?(いわれなくても、わかってるって?)