「難問」に立ち向かった人だけが得る特権

 最近の研究者たちは、クッキーとラディッシュではなく、精密な画像技術を使って「心の筋肉」を研究している。彼らの発見は実におもしろい。

 心の筋肉を消耗した被験者に、fMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)という、脳の活動状況が見える装置に入ってもらう。その結果、疲れた人の脳は独特の働きをすることが判明した。

 肉汁がしたたるチーズバーガーの画像を見せても、難しい問題を解かせても、活発になるのは情動反応を司る部位(扁桃体や眼窩前頭皮質)だけで、合理的で深い考察を司る脳の部位(前頭前野)は沈黙したままだったのだ。

 別の実験でも、被験者に自制を強いたあとは前頭前野がまったく活動しなくなったという。精神的に疲れていると、複雑な問題を解くのも、自制するのも難しくなり、マンガやクッキーに手を伸ばしたくなるのには、理由があったのだ。

 疲労の限界までバーベルでトレーニングすると、腕が思うように動かなくなるのと同じで、誘惑に抗ったり、難しい決断を下したり、手ごわい問題に取り組んだりして精神力を酷使すると、心はうまく機能しなくなる。

 クッキーが食べたい、厄介な問題を解決するのが億劫で仕方がない、体が悲鳴を上げる前に運動をやめたいなどと感じたら、それは心が疲れているからかもしれない。最悪の場合は、大切な人を裏切ることだってあるだろう。

 体に負荷をかけたあとに休息すると、前よりタフな体になるように、心もストレスを受けたあとに回復すると、前よりも強くなる。

 科学者たちによると、人間は誘惑に抵抗したり、物事を深く考えたり、強く集中したりするたびに、同じことが前よりもうまくできるようになるそうだ。かつては意志力には限界があるといわれていたが、最新の研究はそれに異論を唱えており、小さな成長を積み重ねることで人は鍛えられ、やがて大きく成長するといわれている。

 いずれにせよ、意志力であれ、自制心であれ、いかなる知力であれ、心を酷使し続けるとやがて疲れ果ててしまうだろう(少なくとも効率は落ちる)。かといって、まずは小さい問題を解決して力をつけなければ、精神的にタフで難しい問題を解決できるようにならない。

 結局、行き着くのは「負荷+休息=成長」という原点なのである。