「現場に精通している」と認識されれば、信頼関係が生まれる

 ただし、勘違いをしてはいけません。
 権限と責任は一体のものですから、権限委譲をした現場にも相応の責任は負ってもらわなければなりません。しかし、ここで勘違いをする社長がいる。権限委譲したら「責任もすべて現場に移る」と考えてしまうわけです。

 しかし、そんなはずがない。もしそうだとすれば、社長など必要ないではないですか。権限を委譲しても、すべての判断は社長の責任のもとに行われるのです。現場が相応の責任を負うとしても、その現場に仕事を任せた責任は社長にある。つまり、どんな場合であっても、最終責任は社長が担うというのが正しい理解なのです。

 であれば、いかに権限委譲を進めたとしても、社長自らができる限り「3現」を体感する必要があるということにほかなりません。現場の意思決定を尊重するのは当然のこととはいえ、“丸のみ”するのは無責任。むしろ、リーダーが現場と同じように「3現」を体感することで、現場の意思決定を自らの腹に落とし込むプロセスが重要だと思うのです。

 それに、現場を訪問することで、現場のメンバーは、社長が自分たちの職場に関心を持ち、理解しようと常に努力していると認識してくれるでしょう。その結果、「現場に精通したトップ」という評価が定まり、お互いの信頼関係の基盤が出来上がるのです。この信頼関係があるからこそ、時として、現場に厳しい、高い目標を指示しなければならない場面でも、「3現をわかったうえで、この指示を出しているんだろう」と現場メンバーも腹落ちができて、「なんとかやってやろうじゃないか」という気持ちになってもらえるのだと思うのです。