ポイントプログラムの導入だけでは不十分。顧客データ収集の課題
急激なコスト高や世界情勢の混迷に伴う物価変動、流行の短サイクル化などにより、人々の消費行動がかつてないスピードで目まぐるしく変化する社会となった。常に最新の動きを捉えていないと、貴重な販売機会を損失しかねない。
だが、あまりに速い変化のスピードに、「追い付こうにも追い付けない」と途方に暮れているのが、小売店や飲食店の実情ではないだろうか。
「消費行動の微妙な変化を察知する上で欠かせないのは、日々の購買履歴をはじめとする顧客データです。ポイント会員を募り、属性や好みを入力してもらって購買履歴とひも付ければ、個々の消費者の行動がどのように変化しているのかをリアルタイムに追跡できます。当社が運営するdポイントの加盟店が継続的に増えているのは、そうした貴重な顧客データが得られることが大きな理由の一つです」
そう語るのは、NTTドコモ(以下、ドコモ)でdポイントやd払いなどの加盟店支援を行う、同社コンシューマサービスカンパニーカスタマーサクセス部第一コンサルティンググループ担当部長の国井嘉秋氏である。
NTTドコモ コンシューマサービスカンパニー カスタマーサクセス部 第一コンサルティンググループ 担当部長国井嘉秋氏
ドコモのポイントプログラムであるdポイントは、2025年12月にサービス開始から10周年を迎えた。飲食や流通、小売りなどの加盟店は、ポイントを付与することで顧客の来店動機を高めることができるが、メリットはそればかりではない。
顧客がdポイントカード・アプリを提示するたびに来店確認ができ、購買履歴が記録されるので、そのデータを基に販促などのキャンペーンが打てるのだ。しかも、他の加盟店における顧客の購買履歴や消費動向などのビッグデータと突合できるので、より解像度の高いマーケティングが可能となる。
ただし、dポイントに限らず、一般的にポイントプログラムによる顧客データ収集には大きな課題がある。それは、「買い物をして、ポイントカード・アプリを提示した顧客のデータ」しか確認できないことだ。
「お客さまの中には、dポイント会員ではあるものの、
Wi-Fiへの接続情報とひも付け、位置や行動まで可視化する
そうした課題を解決する方法としてドコモが提供しているのが、公衆Wi-Fiサービスのd Wi-Fiとdポイント・d払いなどドコモのビッグデータを掛け合わせた顧客データ分析である。
d Wi-Fiとは、ドコモが日本全国の飲食、流通、小売りなどの店舗で提供している公衆Wi-Fiサービスだ。ドコモのモバイル端末ならSIM認証で自動接続し、無料で使うことができる。
「もともとは、携帯電話の通信の混雑を抑え、ユーザーに快適なネット接続環境を提供するために始めたサービスです。その後、サービスの価値をもっと高められないかと考え、Wi-Fiへの接続情報から得られる位置データをドコモのビッグデータとひも付ける顧客データ分析を開始しました※」と語るのは、ドコモのネットワーク本部ネットワークサービス部Wi-Fi推進部門担当部長の梅原靖志氏だ。
※d Wi-Fiを活用するマーケティングで利用されるユーザーの情報は、「パーソナルデータの取扱いに関する同意事項」に定める位置情報を含むお客さまのパーソナルデータの第三者提供について同意いただいているものに限られます。
NTTドコモ ネットワーク本部 ネットワークサービス部 Wi-Fi推進部門 担当部長梅原靖志氏
d Wi-Fiのアクセスポイント(Wi-Fiの電波を送受信するための機器)を設置している店舗であれば、接続した顧客の来店や店舗内での位置情報の他、Wi-Fi接続の時間に基づいて滞在時間まで把握できるようになる。さらに、これらのデータをドコモのビッグデータとひも付ければ、どんな属性や好み、購買履歴を持つ顧客が、店内をどのように回遊し、どの売り場で時間を費やしたのかといったことが明らかになるのだ。
「これなら、『dポイント会員でありながら、買い物をしなかったお客さま』のデータまで収集できますし、位置や行動、滞在時間などの情報を付加することで、より精緻な顧客データが構築できるわけです」と梅原氏は説明する。
ちなみに、顧客の位置情報を取得できるサービスにはセルラーやGPSなどもあるが、携帯電話の基地局を通じたセルラーデータは「街の人の動き」を捉えることに長けており、GPSは「屋外での高精度な測位」を得意としている。
「その点、屋内でも位置を特定できて、捕捉精度も比較的高いWi-Fiは、店内での行動を把握するのに適したデータ取得方法だといえます。セルラーやGPSでは、お客さまがどの階にいるのかまでは把握できませんが、Wi-Fiなら、階ごとにアクセスポイントを置くことで位置を可視化できます」(梅原氏)
d Wi-Fi活用で配信対象が1.4倍に。丸善ジュンク堂書店が実現した「非購買層へのアプローチ」と購買率アップの成果
d Wi-Fiとドコモのビッグデータを掛け合わせた顧客データ分析は、店舗のマーケティングにどう活用されているのか?
一例として国井氏が紹介したのが大型書店チェーン、丸善ジュンク堂書店による活用事例だ。同社は、YouTube公式チャンネルなどでマス向けに対して集客につながる施策を実施しつつ、店舗では、以前からdポイント・d払いの加盟店として、両サービスの利用者の購買動向などに基づくマーケティング活動を行っていた。
しかし、丸善ジュンク堂書店に限らず、書店には、気軽に店内を回遊し、その日は購入に至らずに帰る来店客も多い。
「ロイヤルティーが高いお客さまへの効果的なマーケティング施策は立てられていますが、一度もお買い上げいただいていないお客さまや、若いお客さまに対して効率の良いアプローチができていないことに課題を感じていました」と同社の担当者は明かす。
そこで、d Wi-Fiを掛け合わせて「購入に至らなかった来店客」のデータまで収集。その結果、販促広告などを配信する顧客の人数は、dポイント・d払いのデータに基づいて配信リストを作成していたときに比べて1.4倍に増加した。
さらに、dポイント・d払いでロイヤルティーを高めていた既存顧客に関しても、d Wi-Fiで収集した行動データを掛け合わせて広告配信ができたことで、購買率が10ポイント上がった。
丸善ジュンク堂書店の担当者は、「d Wi-Fiでしか得られないデータがあり、それを活用すれば、今まで捕捉できなかったターゲットを設定して、いろいろな施策が打てるという可能性を実感しました」と語る。
d Wi-Fiの設置により、dポイントカード・アプリの提示なし(購買行動なし)でも来店確認が可能となる。最適な広告配信や店舗レイアウトの工夫に活用でき、再来店促進や顧客定着につながる拡大画像表示
この他にも、d Wi-Fiとドコモのビッグデータを掛け合わせた顧客データ分析は、さまざまな店舗で活用されている。
あるショッピングモールでは、各フロアにd Wi-Fiを設置して、フロアごとの客層差分や滞在時間差分を分析。さらに、ドコモから提供される基地局情報と掛け合わせることで、周辺施設からの来店状況や潜在顧客の有無まで可視化している。
また、大手小売りチェーンでは、d Wi-Fiへの接続履歴がある顧客にキャンペーン情報を配信したところ、従来の来店履歴に基づかないセグメントと比較して、キャンペーンへのエントリー数と来店者数が、どちらも10%以上高まったという。
これまで多くの店舗が、売り上げが落ちれば価格を下げるなどのキャンペーンで補うといった「売り手起点」の施策に頼らざるを得なかった。しかし、物価高騰や消費行動の多様化が進む今、求められているのは顧客の微細なニーズに寄り添う「生活者起点」のマーケティングだ。
「d Wi-Fiは、お客さまに快適な通信環境を提供すると同時に、収集したデータを店舗運営の最適化や収益アップに結び付けるマーケティングツールへと進化しています」。梅原氏は、d Wi-Fiの役割の変化をそう語る。
また国井氏は、「顧客データは、異なるものを幾層にも掛け合わせることで解像度が上がり、それを利用した販促の効果も高まります。ドコモが持つ巨大な会員基盤を基に、d Wi-Fiとドコモのビッグデータを掛け合わせれば、これまで見えなかったものが見えてくるはず。より消費者の実生活に近い目線でマーケティングが打てるようになるので、ぜひわれわれと共に、その可能性を実感してみてほしいです」と語った。
