これからの時代、電話やハンコを捨てられない企業は成長ができず、潰れていく――。今回は、このことについて述べたい。なぜなら、働き方改革の視点からも重要だからだ。

「電話」や「ハンコ」にこだわる中高年が会社を潰す理由

生産性向上は
現場にまる投げという実態

 最近は、働き方革命がますます加速している。大手企業を中心に、企業は長時間労働の是正に必死だ。東大卒の新入社員だった高橋まつりさんの自殺の件で批判を浴びた電通は、22時以降の残業禁止を打ち出していたが、最近ではさらに「月150時間労働」の通達があったと聞く。念のためだが、これは残業を月150時間以内にしろという話ではない。ひと月あたりの総労働時間の話だ。

 ひと月に150時間の労働とは、具体的にどういうことか。1日8時間働くとして週5日で40時間。4週で160時間だ。つまり、毎日定時に仕事を終わらせて残業がゼロでも、労働時間は150時間を超えてしまう。なので、月に2日くらいは有休を取れという意味だ。ちょっとやり過ぎ感はあるが、そうまでして企業は労働時間を減らそうとしているわけだ。もちろん、社員が過労死するよりも、無理にでも有休を取らせるほうがいいに決まっている。労働時間をそこまで減らして、電通のあの高い給料が維持できるのかという懸念はあるが、それは生産性を高めてなんとかしろという話なのだろう。

 もちろん、生産性を高めること、とくに付加価値労働生産性を高めることは、日本経済全体の課題であるし、企業がそこに真剣に取り組むことは、企業にとっても、社会にとっても、従業員にとってもよいことではある。しかし実態は、生産性を高めると言っても経営陣はノーアイデアで、現場で考えろというケースがほとんどだろう。

 本来、生産性を高めるためには、新しいビジネスモデルの創出が本筋だ。会議を短くするといったことは、無駄とは言わないが効果は限定的だし、本質的なことではない。とくに経営企画や商品企画などの企画関係、クリエイティブな仕事は、会議時間を短くすることとアウトプットのクオリティは別モノだ。アイデアソンみたいなイベントに出たことがあればわかると思うが、クリエイティブなアウトプットのためには、長時間にわたる議論や作業が必要な場合もある。無駄に長い会議は短くすべきだが、短くすればいいというものでもない。必要なことはやはり、新しいビジネスモデルの創出で、サービス業であれば新しい業態、メーカーであれば新しい製品を生み出せなければ生産性は根本的には高まらない。

 業態というのは「収益構造」のことで、たとえばカフェ。昔は、カフェではコーヒーなどのソフトドリンクしか売れなかったし、居酒屋やパブなどではアルコールしか売れなかった。つまり、カフェは昼間しか営業ができず、パブやバーは夜しか商売にならなかった。ところが、カフェバーという業態が新たに登場し、昼はコーヒーが、夜はアルコールが売れるようになった。昼も夜も営業ができるようになり、収益性は上がった。これが業態開発の意味である。

 最近はコンビニがイートイン・コーナーを作ったり、フィットネスジムを併設したりと、新たな業態開発に余念がない。コンビニのイートインに対抗して、スーパーではグローサラントを拡充させようとしている。グローサラントとは、groceryとrestaurantの合成語で、簡単に言えば、スーパーの惣菜コーナーで買った惣菜をその場で食べられるイートインのこと。コンビニと違って、スーパーでは作りたての料理をその場で食べられる。このような取り組みがスーパーの収益性をどこまで高めるか不明だが、外食産業から客を奪える可能性を持っていることは明らかだ。