ビジネスモデルとは、顧客を喜ばせながら、同時に企業が利益を得る仕組みのこと。経営学者の川上昌直氏は、最新刊『マネタイズ戦略』で、マネタイズの視点を取り入れることで、顧客価値提案に画期的なブレークスルーを起こせることを解説しています。放送作家の樋口卓治さんとの対談3回目。かつて『森田一義アワー 笑っていいとも!』『ココリコミラクルタイプ』『学校へ行こう!MAX』など数々の番組に携わり、現在も、『ぴったんこカン・カン』『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』など多数の人気番組を手掛ける超売れっ子放送作家です。そのマネタイズ戦略とは?

樋口卓治氏と川上昌直氏。樋口氏のオフィスにて。

バラエティ番組を作っているときは、大衆居酒屋に行く

川上 放送作家のマネタイズ(収益化)はどうなっていますか?

樋口 テレビ局やラジオ局に雇われた、単価の仕事になります。期間限定のユニットのようなものですね。バラエティ番組なら、その番組が続けば、その分、入金が続きます。1本あたりの金額は放送作家によってピンキリですが、幸い僕は本数を抱えているので、一般的なサラリーマンがもらえるお金よりもいただいていると思います。ただし、「お金の使い方」については、自分の中でルールがあります。

川上 どんなルールですか?

樋口卓治(ひぐち・たくじ) 1964年、北海道生まれ。放送作家。24歳のとき古舘プロジェクトに入社。放送作家のトップクラスであり、現在も十数本のレギュラー番組を抱える。これまでに手がけた主な番組に「フルタチさん」「トーキングフルーツ」「笑っていいとも!」「ヨルタモリ」「金スマ」「ぴったんこカンカン」「Qさま!!」「池上彰そうだったのかニュース」「お願いランキング」などがある。TBSとフジテレビの番組を多数手がける。素人を生かす構成や日常的なシチュエーションが得意。2012年『ボクの妻と結婚してください。』で小説家デビュー。

樋口 自分の作っている番組に見合った使い方をすること。例えば、コント番組を作っているときは、なるべくくだらないことにお金を使おうとかですね。たとえば、UFOキャッチャーで散在したり、漫画を全巻大人買いしたり、居酒屋で酔っ払いにからまれたり。もし高級レストランに行ったとしても、それはギャグとしてネタにするつもりで行く。自宅で葉巻をくゆらせながら高級ワインを飲んでいるのに、庶民感覚のあるバラエティ番組を作っていたら、どこかウソっぽいでしょ?

川上 そうですね。

樋口 倉本聰さんが富良野じゃなくて高層マンションに住んでたら、なんか違和感があるじゃないですか(笑)。その感覚が分からないと、視聴者の気分がわからなくなってしまう気がするんです。生活スタイルと、かかわっている番組をリンクさせなきゃダメだと思っています。

川上 リーズナブルな商品を扱う会社の創業者が、顧客視点を徹底させて一代で大きくしたものの、生まれたときから金持ちだった二代目は、お客さんの気持ちを汲めずに失敗する……みたいな話ともリンクしますね。ターゲットに合わせたライフスタイルを送ることが価値提案になり、面白い番組を作る原動力になるんですね。

樋口 そうかもしれませんね。本当は高級ワインを飲みたいけど、飲めない……。そんな葛藤も、僕の仕事はコント番組に活かせるんです。結局、自制しきれずに、おしゃれなバーに出かけて飲んでしまったなら、それはそれで人間ぽいのでコントになります。

自分を客観視する視点を忘れない

川上 笑えるか、笑えないか。面白いか、面白くないか。それが樋口さんが仕事をする上でのベースになっているんですね。

樋口 そうですね。バラエティ番組を作る人間は、役者のように役に成り切ったらダメなんです。自分に酔っちゃダメで、お客さんが笑っているときに、次のシチュエーションを考えるような客観視する視点が必要だと思っています。

川上昌直(かわかみ・まさなお)博士(経営学)兵庫県立大学 経営学部 教授 ビジネスブレークスルー大学 客員教授「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。初の単独著書『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)は、経営コンサルティングの規範的研究であるとして第41回日本公認会計士協会・学術賞(MCS賞)を受賞。ビジネスの全体像を俯瞰する「ナインセルメソッド」は、さまざまな企業で新規事業立案に用いられ、自身もアドバイザーとして関与している。また、メディアを通じてビジネスの面白さを発信している。その他の著書に『儲ける仕組みをつくるフレームワークの教科書』(かんき出版)、『ビジネスモデル思考法』(ダイヤモンド社)、『そのビジネスから「儲け」を生み出す9つの質問』(日経BP社)など。http://masanaokawakami.com

川上 どういうことですか?

樋口 例えばデパートで便意をもよおしたとき、防犯カメラがついているのを見つけたら冷静を装うじゃないですか。やっとトイレにたどりついたのに何人も並んでいたら、内心、愕然とするけど、それでも冷静を装うでしょ。そのことをおもしろおかしく言えるか、タブーにするか。僕は、言えるタイプ。自分を俯瞰で眺めて笑える要素があるほど、笑いの個数は多くなり、番組作りにも活かせるのではないかと思っています。

川上 自分のことも、相手のことも観察する視点を持つ。

樋口 そうそう。だから、大勢で宴会に出かけたときは、あまり飲まずに1人ひとりのしぐさやクセを観察していますよ。料金のモトなんてとらなくていいんです。逆に、酔っ払ってたっぷり楽しんで帰る人を見ると「バカじゃないの」と思うぐらい(笑)。満足している人が滑稽に見えちゃうんですよね。これは、バラエティ番組を長年作り続けた性(サガ)ですね。

川上 僕は、たっぷり楽しんじゃうタイプかも……(笑)。ところで、放送作家という立場でマネタイズするには、番組のプロデューサーや総合演出の方に呼ばれることが不可欠ですよね。「呼ばれる」ために必要なのは、どのようなことですか。

樋口 バラエティ番組なら、面白い番組を作ってきたか。それが基準になりますね。番組の最後にスタッフの紹介が流れるエンドロールがありますよね。あれは、プロデューサーや総合演出にとってのウィンドウショッピングです。「こんなに面白い番組をやっているなら、声をかけようか」みたいな。反対のときもありますけどね。「こんなつまんない番組、誰がやったの?」ってチェックされるときもあります(笑)。「こいつ呼んだら、こんな番組作られちゃう」と思われたら呼ばれなくなっちゃいますよね。

川上 呼ばれる側は、「誰に呼ばれるか」も重要ですよね。

樋口 そうですね。映画『オーシャンズ11』は、凄腕の泥棒兼詐欺師のジョージ・クルーニーがボスになって、銀行強盗を成功させるために爆破名人、天才詐欺師、電気や通信の専門家など、その道のプロに招集をかけましたが、あんな感覚ですよね。最終決定権のある番組トップはテレビ局の社員が多いのですが、彼らは番組を成功させ名プロデューサーとなって、いくつもの番組を抱えるなどして自分の領土を広げて出世したいんです。だから、そのためのスタッフが選ばれます。

川上 そのときどきで優秀な人材が呼ばれて作られるユニットって、すごく属人的ですね。個々の経験や勘に頼るところも多そうですから、AIは入れない分野ですね。

樋口 そうですね。逆に、AI1人だけで全部できちゃうかもしれないけど(笑)。

大切なのは、相手をわくわくさせることができるか

川上 僕の知る限り、できる経営者は年齢や性別問わず“チャーミング”な方が多く、そうした方が突出した顧客価値を生み出し、利益も生み出している。樋口さんは、こうしたすごい才能のある方たちに「呼ばれる側」ですが、「呼ばれやすいキャラクターかどうか」というのはポイントになりますか。

樋口 それはあるかもしれないですね。僕は、古舘伊知郎さんの所属する会社・古舘プロジェクトで放送作家を募集していたのがきっかけでこの世界に入りました。仕事を始めた当初は、リサーチャーとして図書館に行って東京ドーム何個分か調べるなどしていましたが、そのうち放送作家のバトンが回ってきたんです。それはおそらく僕が、叱りやすい、呼びやすい、連れ回しやすいという雰囲気を体中から醸し出していたからじゃないかと。古舘さんからは「お前はコアラ系だな」と言われ、「でも、コアラが肉食だったら周りは引くぞ。動物園でコアラが振り向いたとき、口のまわりが血だらけだったら子どもたちはびっくりするだろ」と冗談を言われました。

川上 親しみやすいということですよね。人気番組に携わった放送作家は、ますます売れっ子になる。好循環のサイクルに入りますね。

樋口 面白いことに、スケジュールって忙しい人から空くんです。プロデューサーから、「樋口さん、10数本も番組抱えてたら会議する時間なんてありませんよね?ちなみに、〇日か〇日の〇時ぐらいで考えています」と言われてスケジュール帳を開くと、その2日間のその時間だけどちらもぽっかりと奇跡的に空いている。そんなことが多いんです。

川上 引きが強い(笑)。

樋口 そう。逆に、2本しか担当していない放送作家に限って会議する日だけ予定が埋まって動かせなかったり。不思議ですよね。

川上 ひとたび、番組に呼ばれてメンバーに加わってから必要なスキルはありますか。アイデアが突出している、コミュニケーション力や説得力がある、経験値があるなど様々な能力が問われるような気がしますが……。

樋口 どれも持っていた方がいいスキルだと思いますが、その根底にある「わくわくさせることができるか」というのを大切にしています。会議に出席したスタッフとアイデアを出し合うときも、その後に会う出演者の方と打ち合わせをするときも、テレビを見てくれる視聴者に対しても、「わくわくさせること」が「面白い」につながっていくと思っています。

(文・三浦たまみ、撮影・宇佐見利明)

(第3回につづく)

※次回は、12月26日(火)に掲載します。