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上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

英国債が高いのは「危機に即応できるから」――
硬直化した日本の意思決定プロセスを変えていくには

上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]
【第25回】 2011年12月21日
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 野田佳彦内閣は、消費税の扱いを含む社会保障と税の一体改革の素案の年内とりまとめを目指している。だが、党内には増税に対する強い反発がある。反対派は多数派工作を進める構えを見せている。野田内閣は、来年3月までに消費増税準備法案の国会提出を目指しているが、予断を許さない状況だ。また、野田首相が実質的な参加表明をした環太平洋経済連携(TPP)も、民主党内では依然、推進派と慎重派に分かれたままだ。自民党や公明党などの野党も反対している。

 来年、議論が本格化するこれらの課題に対して、野田首相は調整力不足、説明不足と批判されている。野田首相の強い指導力を求める声は多い。だが、野田首相の指導力不足の背景には、日本の意思決定システムの問題がある。

英国債の高い格付の理由:
危機に対する柔軟な対応力

 この連載では、英国債が高い格付を維持している理由を考えた(第5回を参照のこと)。そして、キャメロン英首相が、「大きな社会(Big Society)」という国家構想を打ち出し、財政再建への強い姿勢を示したことが、米格付会社S&Pによる英国債の最高格付け維持につながっていると指摘した。

 しかし先日、ある格付会社で講演を行った際、筆者が英国債は高い格付の理由を聞いてみたところ、答えは、「英国は、危機に対して即座に対応できるから」だった。具体的には、英国では政府が財政危機に対応するために、首相が消費税増税を決断すれば、議会での審議も法律制定も必要なく、即日実行できる。また、危機対応のための省庁横断的な組織が必要ならば、これも法律制定なしに即日設立できる。

 これは、日本と比較すると意思決定プロセスの公開性が低く、首相の独裁性が高い。民主的ではないし、ある意味いい加減な制度ともいえる。だが、英国民から首相の決断に対して、その内容への批判はあっても、いわゆる「独裁批判」はほとんどない。国民の有権者としての自覚が高く、選挙で選んだ首相の決断に正統性を与えているからだ。格付会社は英国の経済・財政の状況の悪さそのものよりも、この英国の政治制度の柔軟な危機対応力を信頼し、評価しているということだ。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


上久保誠人のクリティカル・アナリティクス

国際関係、国内政治で起きているさまざまな出来事を、通説に捉われず批判的思考を持ち、人間の合理的行動や、その背景の歴史、文化、構造、慣習などさまざまな枠組を使い分析する。

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