24万部突破のベストセラー『せつない動物図鑑』。「カンガルーはケンカに負けるとせきをする」、「ゾウはジャンプができない」などなど、せつないエピソードがいっぱいの本書。そこでせつない動物たちは本当にせつないのか確認すべく、東武動物公園の動物園事業部課長、下康浩さんを訪ねた取材陣。前編では「本当にせつなかった!」というエピソードをたくさん伺いましたが、後編では「意外とせつなくない」というエピソードも教えてもらったので、紹介いたします。これを読んで動物園に行くと、楽しさも倍増するはず!(文/山本奈緒子)
一度は見てみたい、サイの“ギャロップ”走り
――本にはこう書いてあるけど実際は意外とせつなくないよ、というエピソードはありますか?
「『ゾウはジャンプができない』というエピソードがありますよね。たしかに見たことがありませんし、体が重いのでできないと思います。ただ、同じように重いサイは軽やかにギャロップ(四本の足が一度に地面を離れるように速く走ること)をするんですよ。サイはものすごく強くて無敵ですから普段は寝てばかりいるんですけど、たまにスパーリングといって、2頭で角を付き合わせて運動するんですね。そうすると大抵はメスが負けて逃げるので、それをオスが追いかけます。このときにギャロップをするんですよ。うちの動物園も前はオスとメスの2頭がいたのでたまにこのギャロップが見られたんですけど、去年オスが亡くなったので走ることがなくなってしまいました」
――サイのギャロップ、見たかったですね……。
駅まで聞こえる?テナガザルの美声
――もう一つ気になったのが、『テナガザルの鳴き声は3km先まで聞こえる』というもの。実際、どのくらい聞こえるんですか? 本当ならご近所迷惑になりそうですが……?
「たしかに『オー!オー!』とものすごくよく通る声で鳴きます。朝から頻繁に鳴きますが、全然うるさいという感じではなくて、けっこう美声ですよ。もともと森林にいる動物なので、よく通る声で『自分はココにいるよー!』と仲間に知らせているんでしょうね。うちの動物園は縦の長さが2kmくらい、そこから最寄り駅までが1kmくらいですから、もしかしたら駅まで届いているかもしれません。駅に着いたら是非耳を澄ませてみてください!」
――他にも、このせつないエピソードに意義あり! というものありますか。
「『羊が覚えられる顔は50個まで』とありますが、飼育係からするとちょっと意外ですね(笑)。あまりたくさん覚えられないという意味なんでしょうが、羊はけっこう賢くて、人間の顔をしっかり見分けているんです。だからたくさんの人が前を通っても無視していますが、担当飼育係が通りかかると必ず目で追いかけるんですよ」
――それはせつないどころか、かわいいですね!
動物園でしか見れない!シマウマの“ひとり寝”
――本には『シマウマはひとりで寝られない』とあります。これは、ひとりで寝ていると肉食動物に狙われてしまうから。そのため飼育されているものはひとりで寝る、と言われていますが、実際こちらのシマウマはいかがですか?
「よくひとりで寝てますよ。草食動物はすぐ逃げられるよう立って寝るのが基本ですが、うちのシマウマは、30分ぐらいですけど横になって寝ることもあります。これは自然界ではとらない行動なので、たまに心配になったお客さんから『死んでますよ!』と言われることもあるくらいです(笑)。ちなみにキリンも、自然では座って寝ないんですけど、うちのはよく座って寝てます。キリンは一度座ると立つのに時間がかかるので、その隙に肉食動物に襲われやすくなるんです。でも、動物園なら安全ですからね」
――なるほど、これは逆に、動物園でしか見られない貴重なシーンといえるかもしれませんね。
カンガルーの威嚇は『ボボボボ』
――もう一つ気になったのが、『カンガルーはケンカに負けるとせきをする』というもの。このせきを聞いたことはありますか?
「これはおそらく、威嚇するときに出す『ボボボボ』という声のことを言ってるんだと思います。いわゆる『コホン』というせきは、聞いたことはないですね。そもそも動物園のカンガルーは仲がいいので、ケンカをしませんから。それよりカンガルーといえば、くぼみのような穴を掘ってそこに横たわるんですね。これは暑さ対策なんですけど、オヤジみたいに穴の縁に肘をかけてリラックスしている、その姿を見るほうが面白いですよ。ちなみにカンガルーの担当者はバイク好きなので、うちのカンガルーもみんなバイクの名前です。カブとかダビッドソンとか」
ほかにもあるある、こんなせつないエピソード!
――本には載っていないけど、うちの動物園ではこんなエピソードがあります、というものを教えてください。
「うちの一番人気は希少種のホワイトタイガーなんですけど、ホワイトタイガーは気を許していない相手に対して威嚇が激しいんですね。たとえば、ホワイトタイガーのロッキーがうちに来たとき、威嚇を続けてなかなか輸送箱から出てこなくて。そのとき、ホワイトタイガーは仲間には『ふふん』と鼻を鳴らす、という習性を思い出し、試しに『ふふん』と鳴らしてみたらようやく箱から出てきてくれた、という出来事がありました。だからといって草原で実際にホワイトタイガーに遭遇したとき、『ふふん』とやったら助かるわけではないと思いますが……」
――他にも「こんな見どころが」というものはありますか?
「ゾウは鼻で何でもつかめるんですよ。大豆一粒も、スパゲティ一本も、絹豆腐すらも!ただ絹豆腐に関しては実は裏技を使っていて、あれはつかんでいると同時に、鼻で吸って持ち上げているんですよ。あとうちの動物園では、いろんな動物の誕生日に、好物の食材をケーキに見立ててプレゼントするんです。タイガーにはお肉のケーキでした。ほかにもクマはイモが好物なので、飼育係がせっせとイモをこねてその上にフルーツを差して、けっこう豪華なケーキを作ります。でもいつも、ものの30秒ぐらいで平らげられてしまうんですよね……」
――せっかく一生懸命作ったのに!でも東武動物公園は、そういった面白いイベントをいろいろされていることでも話題ですよね。
「けものフレンズ」の聖地となった東武動物公園
――こちらの動物園は人気アニメ『けものフレンズ』とコラボされていることでも話題になっていますが、飼育係の誰かが『けもフレ』のファンだったんですか?
「いえ、その当時はよく分からなくて、アニメ内の動物解説に飼育係が数人登場し、ツイッターで話題になっているのを見て、それならコラボしてみよう、と。それで『けもフレ』キャラクターのパネルを園内にいくつか立てたのですが、フンボルトペンギンの舎内に立てた“フルル”というキャラクターを、グレープ君というペンギンがずっと見続けて、その場から離れなかったんですよ。そうしたら『フルルに恋をしたせつないペンギンがいる』とSNS上で話題になりまして、たくさんのけもフレファンが足を運んでくれるようになったんです。残念ながらグレープ君は10月に老衰で亡くなってしまったんですけど、そのお別れ会にはファンからものすごくたくさんの花が届きました」
――それは、感動ものですね!これからもユニークな取り組みに期待しています!
「直近では干支の引き継ぎ式が12月30日にあります。干支が酉年から戌年に変わるということで、ペンギンからラブラドールレトリバーに骨のエサを渡す、という簡単なものですけど。でもこのイベントに限らず、うちは年末年始もずっと営業しています。1月1日と2日はアルパカやオットセイ、ラクダなどを引き連れて歩く夜のパレードもやりますから、お正月休みに是非足を運んでほしいと思います!」
そのとき『せつない動物図鑑』を読んで訪れたら、もっと動物園を楽しめるかもしれません!
《東武動物公園のご紹介》
遊園地、動物園、花と植物の広場が融合した埼玉県のハイブリッドレジャーランド東武動物公園。ジェットコースターや親子で楽しめるアトラクション、動物園にはホワイトタイガーをはじめ約120種の動物たちが生息。この冬もさまざまなイベントを開催していきます。(詳細は公式HP http://www.tobuzoo.com/をご確認ください)
・営業時間:10:00~16:30(季節により変動あり。休園日は公式HPを参照)
・アクセス:〒345-0831 埼玉県南埼玉郡宮代町大字須賀 110
・入園料:大人(中学生以上)1700円、子供(3歳~小学生)700円
・問い合わせ先:0480-93-1200(代表)