バラバラに勝手なことをやるのを止めさせる。これは大臣の権限でやる──。
今月6日、枝野幸男経産大臣はエネルギー政策の方向性を議論する「総合資源エネルギー調査会」(経産相の諮問機関)の委員会で、これから家庭に入っていく「スマートメーター」(次世代電力計)を名指しにして、異例の“宣戦布告”をした。
スマートメーターとは、いつ、誰が、どのくらいの電力を使っているかリアルタイムに把握できる新しいタイプの電気メーターのこと。家庭やビルに取り付けられている7000万台の機械式の電気メーターに替わり、東日本大震災以降、急速に置き換えられようとしている。
スマートメーターであれば、検針員がわざわざ家庭を回らなくても、データ通信で使用量をチェックできる。そのため、省エネルギーや電力需要のピークカットに役立ち、太陽電池やエコ家電とつなげれば新しいライフスタイルが生まれるのである。北米ではGEなど大手が年数百万台のペースで生産しており、効率的なエネルギー社会をつくるキーデバイスとして浸透している。
そんな理想像とは裏腹に、国内では電力会社の旧来の独占体制という、まったくスマートではない問題が立ちはだかっている。
一つ目はスマートメーターの“ガラパゴス化”だ。
すでに東京電力や関西電力などはスマートメーターを試験導入しているが、デザインから機能、規格まですべてバラバラだ。少量多品種生産のためコストは高くつき、「欧米なら1台あたり150ドル~200ドルで済むものが、日本仕様だと、2倍以上の値段に跳ね上がる」(経産省幹部)という。ただ、そのコストを負担するのはユーザーである。日本の電気料金は、コストの積み上げで決まる「総括原価方式」で守られているため、電力会社は痛くも痒くもないのだ。
二つ目は、受注メーカーと電力会社との馴れ合いである。
国内メーカー5社(東光東芝メーターシステムズ、大崎電気工業、三菱電機、GE富士電機メーター、エネゲート)にとって、これまで電力会社との“パイプ”を武器に受注していたメーターは、いわば下請けビジネスだ。電力会社が決めた設計に従って作るため、競合メーカーと差別化するのは難しく、「電力会社から出向社員を受け入れて、顔色をうかがってきた」(元メーター会社幹部)という有様だ。
そんな実情に業を煮やしたのか、委員会では有識者から「高かろう、悪かろうという、ひどい仕様で早期導入を優先していいのか」という疑問の声が上がった。これを受けた枝野大臣が、冒頭の“宣戦布告”に至ったというのが顛末だ。
政府は今後5年間で、約4000万台(電力需要の80%分)のスマートメーターを導入するプランを掲げている。しかし、それが名ばかりの“スマート”ならば、国民の理解が得られるはずもない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)