働き方改革関連法案が紛糾
何がいけなかったのか?
国会で働き方改革関連法案に関する論戦が繰り広げられている。安倍晋三首相は裁量労働制で働く人の労働時間について「一般労働者より短いデータもある」と答弁し、「前提とするデータが不適切だ」と野党から追及されて、発言を撤回した。その影響もあってか、厚生労働省は裁量労働制拡大の実施を延期する検討に入った。与党は働き方改革関連法案を今国会中に成立させたい構えだが、議論は依然、紛糾している。
この問題は、乗せられた安倍首相にももちろん責任はあるが、根本的には厚労省が自らの策に溺れた観がある。今回の働き方改革関連法案が、国民に胡散臭いイメージを与えてしまった段階で、すでによくないのだ。
働き方改革には、「高度プロフェッショナル制度」という、より悪質な問題が控えているのだが、今回は国会で問題になっている裁量労働制を軸に、この問題を解説してみたい。
そもそも裁量労働について語り始めると、私が入社した頃の外資系コンサルファームでの出来事を思い出す。入社2年目、ある巨大企業の企業改革のコンサルティングが始まったばかりのことだ。
プロジェクトが始まった当初、私を含むコンサルティングチームは、クライアントの本部長、部長級の管理職、現場のキーマンなどに対し、10日間かけて初期ヒアリングを重ね、会社の問題点を整理する作業に忙殺されていた。
週明けにクライアント幹部との最初の大きな検討会があり、そこではその巨大企業が抱える問題が何であり、それをどのように改革すべきか、コンサルファームとしての問題提起をぶつけることになっていた。私たち若手社員はほぼ2日間徹夜で、これまでのヒアリング作業をとりまとめていた。
その日、コンサルファームのパートナー(共同経営者、つまり社内で一番偉い人)に対して、コンサルティングチームとしてのドラフト(ほぼ完成させた報告書)を見てもらい、内容を吟味する目的の社内ミーティングが開かれた。
私を含め、それほど寝ていない赤い目をしたチームメンバーが、10日間の幹部ヒアリングでわかったことを整理して報告した。「この会社の問題はAである」と。
それを聞いていたパートナーは、おごそかに口を開いて我々にこう言った。
「おまえらは何もわかっていないんだな」