2011年の日本の貿易収支が31年ぶりの赤字に転落し、「輸出立国」の日本が揺らいでいるというニュースがあった。貿易収支は輸出62兆7234億円から輸入64兆3323億円を引いた数字で1兆6089億円の赤字だった。サービス収支も1兆6407億円の赤字。

 多くの人はこの数字を聞いて「お先真っ暗」と思っただろう。ただし、貿易収支は赤字だが、日本が海外から得た利子や配当などと、海外に支払った利子や配当などの差額である所得収支は、まだ14兆296億円の黒字であり、貿易収支、サービス収支、所得収支等を合計した経常収支は、まだ9兆6289億円の黒字であると慰められる。

 日本の貿易収支(または経常収支)が赤字になることは、日本にとってマイナスであると信じている人は多い。

重商主義の誤謬

 貿易収支(または経常収支)を「得」なこと、赤字を「損」なことと考えるのは経済学にとって初歩的な誤りで、それを「重商主義の誤謬」という。貿易収支の黒字は輸出のほうが輸入より多いことで、別に国にとって得でも損でもない。カナダのように経常収支が100年以上もほとんどの年において赤字でも、立派に発展してきた国もある。アイルランド、オーストラリア、デンマークなどの経常収支は第2次世界大戦以降、だいたい赤字であるが、それらの国が「損」をしてきたわけでない。

 経済学の教科書をひもとくと、経常収支は貯蓄投資バランスに等しいとなっている。国民所得=消費+投資+経常収支と定義されるが、(国民所得-消費)-投資=経常収支、つまり貯蓄(=国民所得-消費)-投資=経常収支となるからだ。