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野口悠紀雄 未曾有の経済危機を読む

金融緩和してもデフレは克服できない
──今こそ必要なデフレの経済学(1)

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第58回】 2010年2月13日
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 「現在の日本経済が抱える最大の問題はデフレである」とする考えが、一般に信じられている。

 政府は、昨年11月の月例経済報告で、「日本経済は緩やかなデフレ状況にある」と認定した。政府による「デフレ宣言」は、2006年6月以来、3年5ヵ月ぶりのものである。鳩山由紀夫総理大臣は、今年1月29日の施政方針演説において、「デフレの克服に向け、日本銀行と一体となって、より強力かつ総合的な経済政策を進めてまいります」と述べた。

 しかし、これらの議論は、明確な経済的モデルをもととして行なわれているものではない。少なくとも、明示的な経済モデルが示されているわけではない。たぶんに感覚的な議論だ。

 感覚的な議論は、誤った認識と、誤った政策を導く危険が大きい。実際、これまで約15年間の日本は、デフレに関する誤った認識の下で、誤った経済政策を採用してきた。日本経済が15年間にわたって停滞から脱却できなかったのは、このためだ。

 したがって、デフレに関する経済モデルを、明確にする必要がある。以下の議論は、やや教科書的なものになっている。しかし、感覚的議論から脱却し、事態を正確に捉えて正しい経済政策を行なうために、こうした議論は避けて通れないものだ。

総需要:物価下落が実質貨幣残高を
増加させて総需要を拡大する

 最初に、標準的なマクロ経済学の理論を紹介しよう(ただし、次回以降で述べるように、実際の日本経済を分析するには、このモデルを修正する必要がある)。

 デフレに関する標準的な議論は、「総需要」「総供給」という概念を軸にして展開される。

 「総需要」は、財・サービスに対する経済全体の需要である。具体的には、消費、投資、政府支出、純輸出(輸出マイナス輸入)などに対する経済全体の需要である。これらは、実質概念で考えられている(*注1)。

 総需要が物価水準(あるいは、物価上昇率)と関係するのは、物価変動が実質貨幣残高を変化させるためだ。ここで、「実質貨幣残高」とは、名目貨幣残高を物価水準で割ったものである(ここでは、すべてを実質量で考えているために、貨幣に対する需要や供給も、名目でなく実質で考えるのである)。

 具体的には、つぎのとおりである。総需要がより大きな状態は、投資がより大きな状態、つまり利子率がより低い状態に対応している。このため、実質貨幣残高に対する需要はより大きくなっている。また、総需要がより大きな状態は所得がより大きな状態に対応しており、この面からも実質貨幣残高に対する需要は大きくなっている。

 ところで、名目貨幣供給量が所与のとき、実質貨幣残高を増加させるには、物価が下落していなければならない。したがって、総需要の大きな状態と物価が下落している状態が対応する(*注2)。つまり、縦軸に物価、横軸に財・サービスの量(実質産出量)をとった図において、総需要曲線は、【図表1】のADのように、右下がりの曲線として示される。

 ここで、つぎの2点に注意が必要だ。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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