グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏。その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売直後から大きな話題となっています。

本書の刊行を記念しておこなわれた、リクルート時代をともにした起業家・けんすう(古川健介)氏との対談の第2回をお届けします。第1回へのリンクはこちらです。
(構成:田中幸宏/撮影:疋田千里)

お客さんを集められる人は無敵

尾原 リクルートを辞めたあと、けんすうのオリジナリティはどうなったんですか?

けんすう インターネットのコミュニティに強いというイメージはあるみたいですね。あと、ブログを書くと割と当たるというのはあります。

尾原 この本には書いていないけど、実は「どこでも誰とでも働ける」ためには、ユーザーを集められる人は、やっぱり強いですよね。

けんすう お客さんを集められるのは無敵ですよね。

尾原 人を動かす力をもっているとデカイ!

けんすう 「人を動かす力」っていうのは難しそうなんですが、方法は実はいろいろありますよね。

 たとえば、リクルート創業者の江副浩正(えぞえ・ひろまさ)さんは声が大きかったらしくて、営業に行ったときに必ず人事部全体に聞こえるように挨拶をしたそうです。そうすると、「なんかリクルートという会社があって江副という人間がいるらしい」「うちは発注しているらしい」ということを人事部のみんなが知ることになる。そして、発注が増えていく。営業スキルがなかったとしても、声の大きさだけでイケるという話です。

 このように自分の強みを活かせるといいですよね。

尾原 江副さんはもともとそんなに外交的な人ではないんです。だけど、リクルートを、みんなが個人を大事にするイキイキとした会社にしたいということで、社内でもずっと営業をしていた。秘書に社員のエピソードを集めさせて、ネタ帳にまとめていたんです。で、エレベータとかで会ったときに、「最近こういうプロジェクトをやっているらしいじゃないか、すごいな」と声をかける。江副さんは天才だと言われるけど、人を動かすために裏側でものすごく努力をする努力家でもあったんですよね。

けんすう(古川健介)
1981年6月2日生まれ。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、ハウツーサイト「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。

ブログもTEDもナラティブがうける

尾原 けんすうは努力していることってあるの?

けんすう ブログは時代によって当たる書き方と内容が全然変わっているので、何年かごとにスタイルをガラッと変えて、どれくらい当たるかというテストをしています。

 コンテンツの要素は大きくわけて「中身」と「表現」のかけあわせで出来ていると思っています。そして、仮説があったので、今年のnoteは「表現」の部分、つまり書き方をガラリと変えて実験してみました。

 すると、3、4記事ではてなブックマークが5000くらい集まったので、今はこんな感じだなとわかってきました。

 どういう表現かというと、ゼロ年代から10年代前半は、目次があって見出しがあって、という、比較的構造的な文章が流行っていたんですけど、今年のnoteでは構造化を一切やめて、小見出しをなくしたんです。

尾原 いまは聴衆に直接語りかけるナラティブっぽいほうがいいよね。わかるわかる。

けんすう 論理的な文章よりもあえてちょっと寄り道して別の話題も入ってきてしまうくらいのほうが、圧倒的に読んでもらえる感覚がありますね。

尾原 今回のTEDがまさにそうでした。これまでのTEDは、いわゆるスティーブ・ジョブズっぽいプレゼンが主流で、写真とストロング・メッセージのスライドを小刻みにバーン、バーン、バーンと出していくスタイルでした。ところが、今回のTEDは、スライドを使わない人が増えて、カンペを使う人も増えた。

 もっと細かく言うと、スライドを使って話をするときだけ画像が出て、それ以外のときは消す。それはなぜかというと、話している人にフォーカスさせたいからです。トランプ以降、エンパシー(共感)がすごく大事になっています。共感が人を動かすわけで、いかに共感してもらうかという視点で考えると、実は、スライドというのは邪魔になる。人ではなくデータに目が行ってしまうから。そこで、使うときだけスライドが映し出されて、それが終わるとパッと消えて背景に戻る。で、人を見てくれと。

けんすう それおもしろいですね。空のスライドを入れているんですかね。

尾原 そうです。でも、真っ暗だとエモーションがわかない。だから、未来に向かってハッピーな話をしているなら、後ろにプロジェクションマッピングで鮮やかな花模様が映し出されたり、セクションごとにテーマにあった間奏曲が用意されていたり……。

けんすう つまり、コンテンツとかデータではなく、エモーショナルな部分を引き出すような仕掛け。

尾原 環境装置ですね。家入一真さん(@hbkr)が、ふつうの公園にいるときでも情熱大陸の音楽をかけると、なぜかしみじみしたことを語りたくなると言っていましたが、共感はいま貨幣のような役割を果たしていて、共感が一番稼げるから、共感を生みやすいフォーマットに変えていくのがすごく大事になっています。

 もう一つ、今回のTEDですごいなと思ったのは、ジョブズのようなプレゼンテーションスタイルで一世を風靡したTEDが、自分で自分を壊しにいったこと。けんすうも、自分でブログの新しいスタイルを模索するのがすごいなと。

けんすう 昔やってたサイトでは、「はじめに」から始まって「終わりに」までつくってまとめるという、構造化の塊みたいなスタイルでやってたのですが、みんながそのフォーマットを使うようになって、見飽きちゃったんですね(笑)。小見出しとか、もう嫌だなと。

尾原 編集の横田大樹さんのアイデアなんですけど、今回の本では、ページの端っこにある見出し(柱)を読むのが大変だから、全部ハッシュタグにしてもらったんです。「#ハイパー性善説」とか「#武器としての議事録」とか、ハッシュタグだけなんとなく覚えておくと、「あれ? なんだっけ?」というときに見つけやすい。

けんすう たしかにパラパラめくったときに、見出しだと見つけづらいですね。

尾原 ページをパラパラめくるというのは検索だから、インデックス的にしてあるわけです。それで読者のみなさんにも「#どこ誰」というハッシュタグ付きでつぶやいてねとお願いしています。

尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。

「始まりの場所」にいる大切さ

尾原 話を戻すと、けんすうがブログの書き方を変えたみたいに、前のやり方が古くなってきたから、新しいことをやったほうが「おいしい」と思える人って、やっぱり特殊なんだろうか。

けんすう 特殊かどうかはわからないですね。でも、2ちゃんねるのひろゆきさん(@hiroyuki_ni)が「成功する人はたまたまそこにいた人だけの場合が多い」といっていたんですね。

 たとえば、ニコニコ動画が始まったときに、たまたま歌っていた人が有名になっただけ、ということです。別に歌がうまい人はたくさんいるはずなんですが、たまたまニコニコ動画が流行りはじめるあたりにそこにいた、ということで人気者になれた。

 ということは、むやみやたらに行動して、いろいろなところにいるほうが有利なんじゃないかと思っています。どこの場所にいるといいかはわからないので、いる場所をたくさん増やしていくのが成功確率をあげるのかなと。

尾原 それ、まさに本に書いたよ!おっしゃる通りで、ランダムな試行回数を増やすと、結果的に「始まりの場所」にいやすくなるから。「始まりの場所」にいると、圧縮して経験できるから圧倒的に成長が早いし、言い方は悪いかもしれないけど、脚光を浴びやすい。脚光を浴びると、まわりの人が勝手に都合よく解釈してくれるから、余計に成功しやすいわけです。

けんすう 年収150万円で生きていけると言っていたイケダハヤトさん(@IHayato)がすぐに仮想通貨のブログに変えたのは、すばらしい変わり身ですよね。ただ彼は、いろいろな場所に身を置くというのはやっています。ブロガーになる、とかもそうですし、地方に住むとかもそうですね。

尾原 すごいと思います。

けんすう 一方で、むやみやたらに行動していれば、失敗例はめちゃくちゃ多くなるけど、失敗ってみんな覚えていないのでリスクはない。

尾原 特にネットは失敗のコストが低いから、何度でも失敗できる。

けんすう ぼくも全然当てていないです。そもそも打率が超低いですから。でも失敗したサービスってほとんど誰も知らないので、あまり困らない。

尾原 それはたくさんのサービスをつくりすぎだからだけど(笑)。上手な失敗のしかたみたいなことで心がけていることはありますか?

けんすう ウソをつかないとか、誠実にやることの価値がすごく上がっているので、そこを押さえておくと、だいたいの失敗は許されるというのはあると思うんですね。常に相手のため、誰かのために誠実にがんばる、というのは意識しています。

尾原 誠実ということでは、昨日ツイッターで見かけたんだけど、子どもがヒカキンさん(@hikakin)ことを「ヒカキン」じゃなくて「ヒカキンさん」と呼ぶらしくて。

 数いるユーチューバーの中で、ヒカキンさんが一番誠実で、一番真面目な人だというのが、子どもにもちゃんと伝わっているんだなと思って。過去に何度か炎上っぽい案件があったけど、みんなかばうんですよね。なおかつ、そのあとのリカバリーが真面目だから、「やっぱりヒカキンさんだよね」ということになる。

けんすう 炎上系のスタイルだと、失敗したときに謝罪しても、それはそれで不自然な感じがしちゃうんでしょうね。

尾原 謝っているけど、本音は違うんじゃないかと思われてしまう。イケダハヤトさんは哲学があって、明らかな出し惜しみ感がある。でも生き方が一貫しているから。

けんすう ちなみに、僕の中で、イケダハヤトさんは頭がいい、はあちゅうさん(@ha_chu)は努力の量がすごい、という整理です。イケハヤさんがサラリーマンを煽ると、「それはイケハヤさんだからできるだけ」となるじゃないですか。でも、はあちゅうさんって、一見そこまで能力が高くないように思わせておいて、桁外れの努力でやっちゃうから。

尾原 はあちゅうさんは努力の量がハンパないから、何にでも手を出すところが逆にすがすがしい。いまなら「Voicy」が来るなと思ったら、必ずいる。でも、早くからやるけど、最初じゃないもんね。

けんすう 最初じゃないです。ただ量はすごいですね。誰よりも更新回数が多いですからね。

尾原 ちょっと遅れて入ってくるけど、量が圧倒的だから、すぐに追いついて、しかも、まわりにそういう彼女を好きな人がいるから、キャッチアップがすごく早い。ホントは、はあちゅうさんの生き方が一番真似できるはずなんです。

(続)

※この対談連載は全5回です。 【1】 【2】 【3】 【4】 【5】