グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏。その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』が発売直後から大きな話題となっています。
本書の刊行を記念しておこなわれた、リクルート時代をともにした起業家・けんすう(古川健介)氏との対談の第4回をお届けします。第1回はこちらです。(構成:田中幸宏/撮影:疋田千里)

自分で副業するより、友だちに副業させるほうが楽

けんすう 信頼できるプロを外部にもっておくといいというのもありますよね。会社から「これ調べておいて」と言われたときに、友だちに10万円で発注して、すぐに仕上げてもらって出すと、すごく評価が上がるみたいな。

尾原 アメリカの大手インフラ会社のプログラマーが、実は全部中国に外注していて、自分は最優秀開発者としてけっこうな額の給料を受け取っていたということが実際にあったよね(「優秀」プログラマー解雇、仕事中国に外注して自分は猫ビデオ)。そいつは結局クビになったけど。

けんすう でも、その人、絶対雇っておいたほうがいいはずですよね。すごく優秀だと思います。

 ぼくもけっこう同じ手を使いますね。すごく楽したいし、なるべくサボりつつ、良いアウトプットを出したいから。10万円払って友だちにつくってもらって評価が上がるなら、それが一番楽じゃないですか。

尾原 前著『モチベーション革命』の共同執筆者の小野田弥恵さんは、ジブリの小冊子『熱風』で私へのインタビューをまとめてくだっさった記事のレベルがあまりにもすばらしくて、「スカイプ雑談しませんか?」とナンパして、「フォーブスで連載開始するんですけど、ぼくはお金はいらないので書いてくれませんか?」とお願いして書いてもらったら、やっぱりすばらしかった。で、ぜひ印税半分もっていってくださいということで、『モチ革』もお願いすることになりました。

けんすう そのほうが得ということですよね。

尾原 この話、『どこでも誰とでも働ける』に入れておくべきでしたね。

けんすう 「あなたも副業しなさい」だと敷居が高いけど、「友だちに副業させる」のはけっこう楽かもしれませんね。

ズルい働き方こそ、楽して成果を上げるコツけんすう(古川健介)
1981年6月2日生まれ。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、ハウツーサイト「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。

尾原 ガイアックスという会社はおもしろくて、1人月5万円アウトソースしなきゃダメなんです。「自分にしかできない仕事をやっていないんじゃないの」ということが問われているわけですね。それを社員にわからせるために、全員が予算5万円もっていて、自分の仕事をアウトソースしていなかったら怒られる仕組みになっている。

けんすう おもしろいですね、それ。

尾原 たしかに、いきなり「副業しろ」と言われてもできないかもしれないけど、他人に副業させるのは、その人が得意で、自分が苦手だとわかっている部分を出すことになるから、うまく補完関係になりやすい。

けんすう リクルートにいたころも、ぼくらは勝手にいい感じの学生エンジニアをつかまえて、30分とかでできる仕事を数万円とかでコードを書いてもらって、クローラーを走らせてデータをとったりしてましたよね。

尾原 やってた!

けんすう 海外のサイトのどのカテゴリに投稿があるかというデータを集めておいて、毎日メールしてくれるようにしておけば、「このサイトは、公開されていないですけど、実はこのカテゴリにこんなに投稿があるんですよ」と説明するだけで、「あいつ、超くわしいぞ!」と思われる。最新情報に詳しいと勝手に思ってもらえるから、それはかしこいですよね。楽だし、全員がうれしいし。

尾原 いまRPA(Robotic Process Automation:ロボットによるオフィス業務の自動化)とか言われているけど、裏側で自分でやっちゃってもいいわけだから。エクセルのマクロをちょっと友だちに書いてもらうとかね。

けんすう そうですね。それもやってもらってました(笑)。

尾原 要するに、ハック好きなんです。もっとみんなハック好きになればいいのにと思います。

「できるだけズルしたい」「できるだけサボりたい」
という気持ちがハックを生む

けんすう 知り合いの有名なエンジニアが新人研修のときに「君たちの仕事はいかに怠慢で、サボるかだ」と言ってたらしいんですね。まじめな人ほど、まじめにエクセルを進化させて方眼紙のように使ってしまったりするのかもしれないですね。不真面目な人は、10時間かかる仕事を楽したいから、ハックしちゃう。

――できるだけ楽したい、と。

尾原 できるだけズルしたい、できるだけサボりたい。しかも、そのサボるやり方も効率化したい。エクセルとかのVBA(Visual Basic for Applications。プログラミング言語)を覚えなくても、別に動作のマクロを覚えるだけでけっこうできたりするので。「サボるやり方をサボる」ということまで含めてハックすると、すごく楽になるんですよね。

――その一環として、人に仕事を振ることも入ってくるわけですね。それを自分でやらなきゃと思い込んでいる人たちは、なかなか手が出ない。

尾原 全部が全部、自分でやれる必要性はないんですよね。

けんすう それ、マッキンゼー的な人の考えですね。さっさと専門家に頼めるくらいまでのレベルに自分を持っていく技術がすごいというか。

 マッキンゼーの人は「3時間あれば専門家と話せる」と言われていて、短時間で10冊、20冊の本を読んで、専門家と話せるくらいの知識を身につける。でも、逆に言うと、そこまででいいということじゃないですか。

尾原 おっしゃるとおりです。

ズルい働き方こそ、楽して成果を上げるコツ尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。

けんすう みんなプログラミングをやりましょうというと、専門家を目指して、超基礎から順番にやろうとするので、基礎を20時間やって、結局全体像がよくわからないまま嫌になっちゃうというパターンが多いのかなと思いました。

尾原 この本でも「本はメートルで買え」と書いていますけど、同じテーマの本を大量に買って何をやっているかというと、構造化しているんです。10冊読んだうちの4冊で同じことが書いてあれば、たぶんここは大事なんだとわかるし、1冊だけ尖った主張をしていれば、そこがカッティングエッジだとわかる。マッキンゼーで本を大量に読んだあと、次に何をやるかというと、業界紙を3年分ダウンロードしてきて、記事の見出しだけ見るんですよ。そうすると、今度は歴史の流れがわかります。

けんすう おもしろい。それは知らなかったです。

尾原 アパレル業界のことを知りたければ、業界人がみんな読んでいる繊研新聞という新聞があるので、日経テレコンの記事検索とかで、中身を読まずにタイトルと日付だけをずっと見ていく。

けんすう そうすると、専門家とも話ができるようになるわけですね。

尾原 「最近こうですよね、でも昔はこうでしたよね。最近それが言われなくなりましたけど、それってどういうことなんですか?」と聞くと、相手の方もその気になっていろいろ話してくださいます。業界のキーパーソンが誰かは何冊も本を読めばわかるから、その人にアポを取る。実際に会う前には、記事の見出しをバーっと読んで歴史観をつくり、この人に何を聞こうか、インタビューノートを用意してから会いに行く。自分なりに仮説を用意して相手にぶつけるわけです。

けんすう で、次に会った人に「この前、業界第一人者の誰々さんと会ったんですが、彼はこう言ってたんですよ」とか言うと、「おっ、あの有名な人と話せるくらいならこの人はきっと詳しいんだろうな」となり、また説得力が上がりますよね。ズルいですね。

 尾原さん、次は『ズルい働き方』みたいな本を書きましょう。

――次作はぜひそのタイトルでお願いします(笑)

尾原 いいかも! この前、ヨーヨーの元世界チャンピオンで、TED 2013にも登場したBLACKさん(@officeblack)と話していておもしろかったのは、彼がなぜヨーヨーパフォーマーになったかというと、ちょっとズルいというか、かしこいやり方で(笑)。競技の世界で生きていくには、とにかく細かい技を突き詰めていかないといけないから、つらいんです。でも、ヨーヨーとダンスを組み合わせる人はあまりいないから、そっちだと勝てる。さらに言うと、彼は自分の身体をいろいろ試したら、前には硬いんだけど、後ろに反るのは柔らかいということに気づいて、イナバウアーみたいな技を取り入れた。自分が楽をしているけど、世の中から見ると珍しいことをうまく見つけて、自分をTEDに出るところまで高めているんですよね。

けんすう BLACKさんにはうちの会社でも講演してもらって、おもしろかったので、「これ、記事にしたいですね」と言ったら、「あ、ありますよ」と言って、原稿があったんですよ。さもその場で考えたかのようにラフにしゃべっているのに、全部原稿があって、一字一句全部覚えているという。そういう恐ろしさがあります。

尾原 BLACKさんはすごく用意周到なんですよ。何をどの順番でしゃべるか、どこで何秒「間(ま)」をおくかも全部計算している。BLACKさんはシルク・ドゥ・ソレイユのメインアクターの一人としても参加していて、シルク・ドゥ・ソレイユの演出家(舞台に出っぱなしのピエロがディレクターを兼務)から「ここで何秒待ったほうがいい」とか全部指導を受けていますから。

 勝つために、どこの場所がニッチかをちゃんと選んで、そこで勝つための準備を淡々とする。ネットを使えば、おもしろくて変なことをしている人は、ちゃんと「発見」されるから、変なことでも、しっかりやり続けられる人は強いです。

(続)

※この対談連載は全5回です。第5回は5/11(金)に公開予定です。
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