移り気な消費者心理をガッチリと把握し、売場に反映し続ける秘訣は何か。情報収集・分析にかけては定評のある鈴木敏文氏ならではの情報を読み解く極意を学ぶ。

鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長 情報が大切なのは言うまでもありませんが、僕は社内で常に「情報にとらわれるな」とも言い続けているんです。特に危ないのが、他人の成功体験。時代や環境が変われば、成功への道も違ってくるはずですから、そんな情報はなんの役にも立たない。

 揶揄するつもりはないけれど、情報収集のために気合いを入れて本や雑誌に読みふける人ほど、情報にとらわれやすい傾向があるような気がします。

 僕の情報収集は至ってシンプル。たとえば、クルマに乗るときは、必ずラジオをつけておく。どんな番組でもいいのです。聞き流していても、「あっ!」と記憶に刻み込まれるフレーズがたまにある。こういう情報が、得てして商売の重要なヒントになることが多いのです。

 僕は読書家でもありません。ひととおり、手には取るけれど、ピンと来る内容のもの以外は、きちんと読まない。重要な文章にラインを引いたり、メモをすることもいっさいしません。

これといった情報収集活動はしていないという鈴木の言葉は、ありあまる情報に日々追われるビジネスマンへの痛烈な皮肉と受け取れなくもない。「お勉強」すれば有益な情報が得られると思ったら大間違い。電車の中吊り広告、ラジオなど、誰にでも見える・聞こえる些細な情報のなかにこそ、ヒントは隠されている。

過去の常識は通用しない。
だからこそ肝心なのは情報の鮮度だ!

 僕はハウツー本も嫌いです。小売りの現場では、過去の成功体験が通用しないことのほうがはるかに多い。だから「こうすれば成功する」なんて法則はあるわけがないと思っている。

 たとえば、去年の冬は寒かったけれど、ショートコートがよく売れました。逆に、今年は暖冬にもかかわらず、ロングコートが売れている。