特別指導の発端は
社員の過労自殺だった

「過労死隠し」の疑惑の発端は、3月4日付の朝日新聞が報じた「野村不動産 社員が過労自殺」の記事だった。

 記事やその後の厚労省などの説明で、明らかになった経緯はこうだ。

 50歳代の男性社員が2016年9月に過労自殺。遺族は、翌17年春に労働基準監督署に労災を申請し、厚労省東京労働局はこの労災申請を端緒として野村不動産に調査に入り、その結果、裁量労働制の乱用が見つかった。

 そして昨年12月25日には東京労働局の勝田智明東京労働局長が野村不動産の宮嶋誠一社長を呼んで、同社に対し「特別指導」という極めて異例の行政指導が行われた。

 この一連の経緯のなかで異例のことが相次いだ。

 通常は公表されない特別指導の実施を、指導の翌26日に厚労省は、東京労働局長の定例記者会見で明らかにしたのだ。

 毎月、開かれるこの定例会見は、ふだんは雇用状況の説明などが主な内容で、メディアの関心はさして高くない。だがこの日は違った。

 高級マンション「プラウド」を全国展開する不動産大手の野村が、本社や各地の支社で裁量労働制を違法に適用、長時間労働をさせていた労働基準法違反の事実がいきなり発表されたから、新聞各紙は大きな扱いで一斉に報じた。

 裁量労働制は、実際に働いた時間でなく、あらかじめ労使で合意した労働時間(みなし労働時間)に基づいて残業代込みの賃金を払う制度。社員がいくら長時間働いても追加の残業代を支払わなくてもよいため、連合などから「長時間労働を助長する」と強く批判されてきた制度だ。

 このため、労働基準法は適用要件を厳しく定め、労働時間を自らコントロールする必要がある社員にしか適用できないルールになっている。

 ところが、野村不動産はこのルールを破り、モデルルームで接客する社員や中古物件の仲介業務を行う社員らに違法に適用していた。裁量労働制が適用されたのは全社員のほぼ3分の1にあたる約600人で、違法適用は2005年から続いていた。 まさに「乱用」だった。