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3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史

本当に溺死なのか――。死因に納得できず苦しむ遺族
戦場の被災地で法医学者が痛感した“検死”の限界

――岩瀬博太郎・千葉大学大学院法医学教室教授のケース

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第9回】 2012年4月10日
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 昨年の震災では、死者・行方不明者が2万人近くに上った。我々は、その死因の大部分は「溺死」と考えている。しかし、現実はそこまで単純ではない。

 遺族に聞くと、こういう声が出てくる。「家族の死因がわからない」「津波に襲われた後、しばらくの間、漂流していたのではないか」「凍死したように思える」

 なぜ、このような“混乱”が生じるのか。昨年の震災では現場にいち早く駆けつけ、多くの遺体の検案に関わった法医学者に取材を試みた。


被災地で検案を行なった教授の告白
「死因の特定」は十分にはできていなかった

(上)千葉大学大学院法医学教室教授 岩瀬博太郎氏。(下)千葉大学医学部(千葉市中央区)。

 「ご遺体の検案をする際、死体検案書に書く死因を“溺死”としたケースが大多数だった。解剖することができない以上、死因を正確に判定することはできなかった。それが残念だった……」

 千葉大学大学院法医学教室教授の岩瀬博太郎氏(44歳)は答えた。私が、検死の問題点を尋ねたときだった。

 岩瀬氏は昨年3月に発生した震災の直後に、陸前高田市などに出向き、多くの遺体の検案を行なった。東京大学助教授を経て、36歳で教授に就任し、現在は日本法医学会の理事も務める。“検死の先進国”スウェーデン、オーストラリアを視察した経験もある。

 私が「なぜ残念だと思っているのか」と聞くと、岩瀬氏はこう答えた。

 「海外の先進国の法医学者が、1年前に我々が行なった検案の実態を知ったら、『死因をもっと究明するべきだった』と指摘するかもしれない。日本では、2万人近いご遺体に、他の先進国並みの検案をすることは難しい。その意味では、後進国と言えるのかもしれない」

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史

東日本大震災からもう1年が経とうとしている。人々の記憶も薄らぎ始めた。しかし、国の復興対策はなかなか進まず、被災者・遺族の心の傷も癒えない。3.11がもたらした「喪失」は、日本人にどんな教訓を投げかけているのか。日本が真の復興を遂げられる日は来るのか。その問いかけをまだ止めることはできない。いや、止めてはいけない。遺族、医師、消防団員、教師、看護士――。ジャーナリストとして震災の「生き証人」たちを取材し続けた筆者が、様々な立場から語られる悲劇の真相を改めて炙り出す。

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