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3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史

せめて遺族の“最期の別れ”は気持ちよく――。
極限状態で遺体保護を続けたエンバーマーの素顔

――日本遺体衛生保全協会 加藤裕二・事務局長、馬塲泰見・スーパーバイザーのケース

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第8回】 2012年4月3日
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 昨年の震災では多くの死者が出た。その際、問題が生じたのが遺体の取り扱いだった。震災から1年が過ぎると、そのことを検証しようとする機運はほとんどない。だが、今後の危機管理を考えると、少なくとも当時の教訓を基に、問題点は検証しておく必要がある。

 そこで今回は、遺体を扱うプロフェッショナルである「エンバーマー」に取材を試みた。


遺体を扱うプロフェッショナル
エンバーマーが回想する「あの日」

日本遺体衛生保全協会(IFSA)事務局長の加藤裕二氏(上)、協会のスーパーバイザーであり、エンバーマーの馬塲泰見氏(下)。

 「日頃から私たちはご遺体に関わり、エンバーミング処置を通じて、ご葬儀のお手伝いをさせていただいている。この仕事に誇りを持っているから、ためらうものはなかった」

 一般社団法人日本遺体衛生保全協会(IFSA)で事務局長を務める、加藤裕二氏が答えた。その横では、協会のスーパーバイザーである馬塲泰見氏がうなずく。私が「昨年3月、被災地の遺体安置所で多くの遺体を見たときに恐れを感じなかったのか」と尋ねたときだった。

 2人は、遺体を扱うプロフェッショナルだ。加藤氏は20年近く葬儀業に関わってきた。現在は神奈川県で、エンバーミング(遺体衛生保全)業務をする株式会社SECの代表を務める。その傍ら、日本遺体衛生保全協会(IFSA)の事務局長として、加盟する葬儀社やエンバーマーをまとめる。

 馬塲氏は、遺体の消毒や保存処置、必要に応じて修復する知識や技術を身に付けたエンバーマーである。兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線列車事故(2005年)の際も、遺体の処置に加わった。

 加藤氏は、自らの経験を淡々と語り始めた。

 「自殺をされた方のご遺体を自宅の2階から下ろしたり、海で見つかった腐乱した状態のご遺体を搬送したり……。トイレの中で亡くなった方のご遺体から、虫を取り払い、納棺したこともある」

 私が「本当にためらいはないのか」と聞くと、加藤氏は「誰かがしないといけない。それを私たちがさせていただく」と答えた。これまでには、一緒に現場へ行き、損傷の激しい遺体を見て気分を悪くし、職を離れた人もいるという。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史

東日本大震災からもう1年が経とうとしている。人々の記憶も薄らぎ始めた。しかし、国の復興対策はなかなか進まず、被災者・遺族の心の傷も癒えない。3.11がもたらした「喪失」は、日本人にどんな教訓を投げかけているのか。日本が真の復興を遂げられる日は来るのか。その問いかけをまだ止めることはできない。いや、止めてはいけない。遺族、医師、消防団員、教師、看護士――。ジャーナリストとして震災の「生き証人」たちを取材し続けた筆者が、様々な立場から語られる悲劇の真相を改めて炙り出す。

「3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史」

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