正社員の暮らしが崩壊か、働き方法案の同一労働同一賃金に関するリスクとは佳境にさしかかる働き方改革関連法案の国会審議。しかし、審議が尽くされていないがゆえの大きなリスクも見える(写真はイメージです)

なぜ同一労働同一賃金の課題は
国会できちんと議論されないのか

 いわゆる「働き方改革関連法案」の国会審議が始まり、本国会で成立するかどうか、一進一退の様相を呈している。裁量労働制の拡大は見送られ、高度プロフェッショナル制度導入の是非に焦点が当たっている。

 それに対して、法案の2本柱とも言える「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金」については、ほぼ原案通りの通過が見込まれている。このうち長時間労働の是正については、上限時間と導入時期くらいしか論点が見当たらないが、問題は同一労働同一賃金だ。企業にもビジネスパーソンにも、極めて大きな影響を与える可能性があるにもかかわらず、法案成立を目前にしながら気持ちが悪いほど議論が深まっていないことには疑問を感じる。

 そこで、同一労働同一賃金にどんな課題が残されているのかを改めて考えてみよう。  

 実は、法案成立を待たずにその影響は出始めている。日本郵政グループが、引っ越しを伴う異動がない勤務地限定正社員のうち、約5000人に支給している住居手当を今年10月から廃止することになり、批判を集めている。これは、今年2月の大阪地裁の判決が伏線となっている。日本郵便の正社員と同じ業務内容の契約社員について、扶養手当や住居手当などの格差を違法と判断したのだ。

 今回の措置は、正社員の待遇を下げる一方、手当の削減分を非正社員の待遇改善に充て、社員間の格差是正を図るのが目的だ。

 一方で、トヨタ自動車は、期間従業員にも家族手当(扶養手当)を支給する方針を固めた。同一労働同一賃金の実現につなげるためという。

 もちろん政府の理想が、トヨタのような非正規社員の待遇改善であることは間違いない。しかし、すべての待遇を正社員に合わせることになれば、人件費の増加は非常に重くなる。となれば、日本郵政のように、正社員の待遇を下げることで格差を是正しようと考える企業が世間の主流となる可能性が高い。企業で働く正社員にとっては、大きな不安になるだろう。