『週刊ダイヤモンド』6月16日号の第一特集は「成長するならカネ借りろ!借金経営のススメ」です。ショッキングなタイトルに思われるかもしれませんが、実は日本では借金に対する誤解が蔓延しています。特集では良い借金、悪い借金とは何かを解説しています。同時に借金に必須な貸借対照表(BS)読解術も超易しく伝授。また、無担保・無保証でも銀行から融資を引き出す方法など、低金利で借り時の今、うまい借金の仕方も紹介しています。

武田薬品3兆円強、
SB15兆円の「借金」の是非

 借金──。この言葉を聞いて、あなたはどんな印象を抱くだろうか。日本では、前向きに捉える人は少数派のはずだ。

 昨今、日本企業で巨額の借金をするケースが増加している。

 武田薬品工業は6兆8000億円という日本企業では過去最大の買収を実施。その買収資金の半分程度を当面はブリッジローンという借金で賄うという。

 また、2016年にはソフトバンクグループが英国の半導体設計企業のアームを3兆3000億円で買収。他にも大きな買収を続けていて、今や借金を示す有利子負債は15兆円に膨れ上がっている。

 それらのケースでは借金の金額の大きさが、メディアなどの批判にさらされることが少なくない。

 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長も批判を意識してか、決算会見では苦笑しながら「借金王だと思われている」と発言している。

 ところが、企業の資金調達を研究するコーポレートファイナンスの分野を専門とする松田千恵子・首都大学東京大学院教授は「借金を活用して会社を拡大させるソフトバンクの手法はコーポレートファイナンスの教科書通り」と明かす。同趣旨の発言をする専門家は多い。

 なぜ、このような認識の乖離が生まれるのか。

 長らく日本では、企業の経営陣もメディアも「無借金経営はいい経営」「借金は悪」というのが常識と考えられてきた。借金の少なさを示す自己資本比率の高さを誇るような経営者も多い。

 背景には、日本では銀行が企業のおカネの面倒を見るメーンバンク制が長く続いてきたことがある。

 その銀行は、バブル崩壊後に苦境に陥ると、とにかく企業に対して、返済を進めて筋肉質になることを求めた。また、当時は成長のための借金ではなく、生き残るために銀行に泣き付いて借金をすることもあった。そして、幾つかの企業は借金で首が回らず破綻に追い込まれた。

 そんな期間があまりに長かったため、「借金=悪」という図式が意識に植え付けられているのだ。要は、「バブル崩壊後に銀行が主導した財務リストラ期の感覚のままでいる」(松田教授)わけだ。

 しかし、ファイナンスの専門家や企業で財務を担当するCFO(最高財務責任者)の一部は、「日本では借金に対する誤解が強過ぎる。借金には良い借金と悪い借金があって、きちんと見極めるべき」と力説する。

 詳細は特集の中で述べるが、悪い借金とは経営危機にある会社が生き延びるためにダラダラと続ける借金。良い借金とは、成長の機会を逃さないための借金だ。

 借金をしても、それをきっかけに成長し、返済能力も上がる。そんな借金は良い借金といえる。

 実際、日本企業の借金の中身は変化しつつある。財務省の「法人企業統計」によれば、企業の借金の額はリーマンショック後に減少したものの再び増加している。

 しかし、中身を見ると、単純に増加しているのではない。金額だけでいえば、リーマンショック前と同水準だが、それを稼ぐ能力(経常利益)で割った値は低下を続けている。

 つまり、金額は増えたが、返す能力の裏付けも増しているという意味で、借金の性質が違うのだ。本来なら、借金の良しあしはそのように稼ぐ能力や他に持っている資産なども考慮して、総合的に判断すべきなのだ。

ない方が正しい企業経営!?
借金への誤解蔓延する日本

 もう一つ大きな誤解が、株主が出してくれたおカネに対する認識だ。特集で詳細を述べるが、「株主が出してくれたおカネは返さなくていい楽チンなおカネだ」と誤解している経営者がいる。

 企業の資金調達では「調達コスト」という概念があり、そのコストはいかなる場合でも「借金<株主からのおカネ」なのである。言い換えれば、借金が少な過ぎるのは高コストであり、効率が悪い。

 最後の誤解は「借金をしている企業は手元におカネがない」というもの。こちらもそうは言い切れず、借金をしつつも手元に現金を置き、有事に備える企業もある。

 というわけで、「うちは無借金経営」と胸を張る経営者がいても、それは必ずしも誇れることではない。成長していて、かつ無借金ならまだしも、座して死を待つような停滞状態で、リスクを取って新事業をやらないのなら、企業の存在意義にも関わる。

 それは中小企業でも同じだ。中小企業への融資の際、銀行は自己資本比率の高さをあまり重視していない。それよりも、その企業の稼ぐ能力であるキャッシュフローに重きを置いている(特集で解説)。

 現在は、未曽有の低金利だが、多くの専門家は長期では金利が上昇するとみている。企業にとっては今が借り時ともいえそうだ。

 もちろん、際限なく借金をすることを勧めるわけではない。

 成長の原動力として、従業員、株主、銀行、経営者の全員が幸せになる借金。そんな良い借金の概念が今の日本には必要なのではないだろうか。

低金利の今、良い借金を
知って成長しよう

『週刊ダイヤモンド』6月16日号の第一特集は「成長するならカネ借りろ! 借金経営のススメ」です。

 日本では成長しなくとも借金の少なさだけを自慢する、あるいは無借金経営を善とするような風潮があります。しかし、成長するための正しい借金なら歓迎すべきなのです。未曽有の低金利で借り時の今こそ、正しい借金について考えてみよう、というのが本特集の趣旨です。

 ですので、特集では、良い借金と悪い借金とは何かについて、まずは論じています。また、借金を知る、借金をするにあたって必須である、貸借対照表(BS)の読み解き方も解説。ただし、難しい数式や用語の暗記は一切不要の楽チン読解術となっています。気になる今後の金利動向についてもエコノミスト5人に徹底予測してもらっています。

 さらに、700社の経営を指南した小山昇氏が解説する無担保・無保証でも銀行から融資を引き出す方法や、銀行との対話に使える「資金繰り改善計画書」の作り方も易しく紹介。銀行員が「こんな社長には貸したくない」と明かす覆面座談会も掲載されています。そして、零細企業でも利用可能で、決算書もいらず即日審査のオンライン融資など、借金にまつわる最新フィンテック事情も実例とともにお伝えします。

 成長のための良い借金。特集がその一助になれば幸いです。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 清水量介)