女性のキャリア形成を阻む「仕事とライフイベントの両立の困難」 

経済産業省が2024年に行った試算によれば、女性特有の健康課題による経済損失は、社会全体で年間約3.4兆円に上る(※1)。この数字は、健康不安やライフイベントとの両立の難しさが、女性の継続的なキャリア形成を阻んでいる現状を浮き彫りにしている。社員が心身共に健康で、長く能力を発揮し続けられる環境を整えること。それは単なる福利厚生ではなく、企業の持続的成長に欠かせない重要な経営戦略だといえる。

加えて、東京都内の事業所における女性管理職の割合は、2023年度の調査において15.8%といまだ低水準にとどまっている(※2)。これは、多くの企業で女性が長く働き続け、キャリアを積み上げられる土台づくりがまだ十分ではないことを示唆しているといえる。そして、女性の管理職比率が伸び悩む背景には、家庭やライフイベントと仕事との両立の難しさや、それに伴う女性従業員の勤続年数の短さといった課題が横たわっている。

女性活躍の推進は、企業に対し法律で定められた責務でもある。「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)は、従業員数101人以上の企業に対して、女性の活躍推進や仕事と子育てを両立できる環境整備に向けた一般事業主行動計画(行動計画)の策定を義務付けている。 

しかし、従業員数101人以上300人以下の中小企業においては、大企業に比べて人員・資金・ノウハウの違いもあり、「何から手を付けるべきか分からない」と悩む声は多い。そこで東京都では、中小企業を含む都内企業に向けて、行動計画策定支援に加え、働く女性のヘルスリテラシー向上や健康課題への理解促進といった、実情に即した多面的な支援を展開している。 

本記事では、こうした支援も活用しながら、女性活躍の推進において制度整備と組織の風土改革の両面で成果を上げている中小企業2社の事例を紹介する。両社からは、持続的成長につながる、中小企業ならではの仕組み作りが見えてきた。

※1 出典:「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(2024年、経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf

※2 出典:「令和5年度東京都男女雇用平等参画状況調査」(2024年、東京都)
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2024/03/2024032954

【事例企業1】AIT 
女性が輝きながら働き続けられる会社を目指して~女性活躍推進10年の歩み

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”AIT
執行役員 経営企画本部長 経営企画部長
小林早苗氏(中央)
経営企画本部 経営企画部 次長
福田恭子氏(左)
管理本部 人事・総務部長
田中元基氏(右)

「女性社員の交流の場」を設けて悩みや課題を共有 

AIT(エーアイティ)は、IBM製品を中心にハードウエア・ソフトウエアの販売、インフラ構築や技術支援を行うIT企業だ。業界の特性上、営業・SE(システムエンジニア)を中心に女性社員が少なく、特に営業職においては、数名の状態が続いていた。2010年ごろから女性営業職の採用に力を入れ始めたものの、継続勤務年数が伸び悩み、「この会社で長く働くイメージが持てない」という女性社員の声も聞こえてきたという。 

そこで2016年の女性活躍推進法施行を契機に、本格的な環境整備に踏み切る。掲げた目標は「女性が輝きながら働き続けられる会社」。最初に、行動計画で設定したKPI(重要業績評価指標)は「継続勤務3年以上の女性社員割合を69.6%→75%に増やす」ことだった。 

「当時は、法的義務はありませんでしたが、『えるぼし認定(※3)を取りたい』『女性が活躍している会社を目指したい』という強い思いがありました」と、経営企画部次長の福田恭子氏は振り返る。 

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”AIT 経営企画本部 経営企画部 次長 福田恭子

2017年には部門横断で女性社員が交流する「女性コミュニティ」を発足させた。当コミュニティには、「女性が働き続ける上での悩みや課題を共有する受け皿」と、「気付きや学びを共有する交流の場」としての二つの役割がある。学びのテーマもさまざまで、キャリアや健康、会食時マナーをはじめ、パーソナルカラーやファッションなど、女性社員の意見を積極的に取り入れている。

活動はあくまで社員の「自由参加」だが、会社公認の活動として各部署からも理解を得ており、誰もが参加しやすい環境を整えている。開催形式も、対面に加えて完全オンラインやハイブリッド形式も採り入れるなど、柔軟に運用してきた。

経営陣の承認と予算の確保によって、継続できる仕組みを作り上げたこともポイントとなった。学びの後の懇親会も、全社横断で女性同士が交流できる貴重な機会となっていて、コロナ禍以降開催が減っていたものの、徐々に復活させている。

※3 えるぼし認定:女性活躍推進法に基づき、一般事業主行動計画の策定・届け出等を行った事業主のうち、女性の活躍推進に関する取り組みの実施状況が優良である等の一定の要件を満たした事業主が、都道府県労働局への申請により受けられる、厚生労働大臣の認定 

併せて、2018年からは東京都の女性活躍推進アドバイザー支援も活用しながら、行動計画の策定を開始。2020年には、えるぼし認定(2つ星)を取得した。キャリアデザインなどの研修については、内製化することはハードルが高かったため、外部研修を積極的に活用。東京都の無料セミナーやキャリアデザイン講座を社員に案内するとともに、勤務時間内に受講できるように時間を確保し、外部のロールモデルからも学べる場を整えた。 

男女共に育児と仕事を両立できる制度を整備。採用にも好循環

仕組みの面でも、性別を問わず育児と仕事を両立できる環境づくりに注力した。育児休業については法定で最長2年のところを最長3年に、短時間勤務も法定では3歳までのところを小学校就学開始までとするなど、育児に関わる制度を充実させた。「当社グループ全体を統括する人事部門とも話し合い、法律の先を行く制度を整えていこうという方針になりました」と人事・総務部長の田中元基氏は語る。 

さらには時間単位の看護休暇、時差出勤も導入した。当初は「制度はあっても使う意識が浸透していない」という実情もあったが、転機となったのはコロナ禍だった。

感染対策として在宅勤務や時差出勤を行う中で、一人一人が業務効率を落とさない働き方の工夫を迫られた。これこそが社員自らのワーク・ライフ・バランスを調整する意識の高まりへとつながり、制度活用を後押しすることになった。会社としても、柔軟な働き方によって家事や育児に充てる時間が生まれ、働きやすい環境の整備につながると考え、コロナ禍が明けた後も、元に戻す選択はしなかった。

結果として、コロナ禍以降も在宅勤務を併用する柔軟な働き方が定着。「制度が使われる土壌」が育っていった。また、働き方の変化を踏まえ、管理職を中心にさまざまな女性活躍推進のためのマインドセット研修を実施。育児を担う部下へのマネジメントにとどまらず、女性特有の健康課題や心身のケアなど、多様な背景への理解を深めるよう促していった。

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”AIT 管理本部 人事・総務部長 田中元基

「研修やさまざまな活動を経て、管理職の意識も、『女性の部下がいるから学ばなくてはいけない』から、『定着してもらうためには自分は何をすべきか』に少しずつ変わってきました。また、『女性社員の定着は会社の業績にもつながる』という認識も共有されるようになってきています」(経営企画本部長・小林早苗氏) 

女性コミュニティや育児面での制度拡充といった施策もあり、女性社員比率は上昇。2019年以降は女性比率が全体の20%以上、2023年以降は25%以上で推移する。育児を担う社員が両立しながらリーダーとして成果を上げる姿は、後輩のロールモデルにもなっている。職場の風土としても、制度はあるが使いにくいという状態は解消されつつある。ウェブ会議に子どもが映っても、上司が自然に声を掛けることで場が和むようなことも増えた。また、育児休職、介護休職などの取得者も、周囲も、気持ちよく“お互いさま”と思える空気を根付かせていけたらと願っているという。 

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”AIT 執行役員 経営企画本部長 経営企画部長 小林早苗

採用面でも、女性の応募者が大幅に増加するなど変化が表れた。ウェブサイトの採用ページでえるぼし認定や育児支援制度を明示し、子育てと仕事を両立しやすい社風を打ち出したことも実を結んだ。また、採用選考では現場の女性管理職が1次面接から参加するなど、女性が第一線で活躍している姿を示せるようになった。応募者の多くが「制度があるだけではなく、実際に使われている」点を評価して入社を決めているという。 

今後の課題は、男性の育児休業取得に対する理解および希望者が取得しやすくなるための職場づくりや、メンタルヘルス・更年期といった悩みに対応できる健康経営の強化だ。特に女性の年代別健康課題については、「『そういう時期もあるよね』と理解できる風土をつくっていきたいです」と福田氏は語る。 

小林氏は、全社員が集まった会議の場で「こんなに若い人や女性が増えたのか」と、会社の景色が変わったことを実感したという。ここに至るまでの取り組みは、確かな自信となっている。小林氏は「働きやすい会社にしていくことが、長く活躍してもらうための近道」とこの10年の歩みを振り返り、これから女性活躍の推進に挑む企業に向けてエールを送る。 

「大切なのは、長い目で見た『お互いさま』の循環をつくることではないでしょうか。今、子育てなどで大変な思いをしている社員にとっても、将来自分の部下が直面する子育てや介護の際にも生きてくるはずです。制度だけでなく、そうした地道な助け合いの連鎖が、会社と組織の未来を育んでいくのだと思います」

株式会社AIT 
設立: 1991年 
事業内容:IBM製品を中心にハードウエア・ソフトウエアの販売、インフラ構築や技術支援を行うIT企業 https://www.ait.co.jp/

【事例企業2】オザックス
「女性活躍」から出発してつくり上げた「全員が活躍できる職場」 

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”オザックス
人事本部 副本部長
伊藤美智子氏 (右)
ロジスティクス本部 副本部長
大山朱美氏 (左)

「ダイバーシティ推進」を起点に制度・風土を整える 

創業100年を超える生活関連資材・素材の専門商社、オザックス。社員の男女比は、男性53%に対して女性47%と、数字だけを見ればバランスは取れている。しかし、管理職候補である女性の総合職の不足という課題もあったため、同社では「管理職の女性比率を上げる」といった数値目標を単に立てることではなく、女性だけではない多様な人材が、それぞれ望む立場で力を発揮できる環境をつくることを目指した。 

同社は2023年度より、社長直下の施策として、「ダイバーシティプロジェクト」を発足させた。1年目は「女性の活躍できる職場とは」についての探究、2年目は「誰もがわくわく働けること」をコンセプトとし、その活動においては「意見を聞き、提言を行う」という役割に比重を置くことにした。 

その理由について、人事本部副本部長の伊藤美智子氏は「人事本部の人間としてではなく、プロジェクトの一員という中立的な立場で意見を聞くことができたため、より本音に近い意見を吸い上げることができ、多岐にわたる課題に対して、より柔軟な対応ができました」と説明する。 

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”オザックス 人事本部 副本部長 伊藤美智子

同プロジェクトではまず、「女性活躍とは何か」を学ぶべく情報収集をスタート。「えるぼし認定」や「くるみん認定」(※4)といった認定制度の要件を精査して自社の現状と照らし合わせたところ、えるぼし認定(2つ星)が取得できる見通しが立ち、これらを整えることによって、網羅的に働きやすい環境ができるのではないかとの考えから、認定取得を具体的な目標に定めた。 

※4 くるみん認定:次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画を策定した企業のうち、計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業が、申請を行うことによって受けられる、「子育てサポート企業」としての厚生労働大臣の認定

ロジスティクス本部副本部長の大山朱美氏は、えるぼし認定を取得したことで、自社の施策のレベルを客観的に把握できたと語る。「自分たちの取り組みが大企業と比肩し得る水準にあると可視化できたことは、組織にとって揺るぎない自信となり、社内外へ発信できるようになったと感じています」。 

制度利用の根底にある「信頼関係」と「対話」の重要性

この自信が、さらなる風土改革の推進力となった。ただ、風土醸成に至るまでに痛感したのは、「社員の生きた声を聞く」ことの難しさだった。そこで、形式的な会議ではなく、心理的な安全性を担保することを念頭に置き、属性やライフステージを軸にしたメンバーで、お弁当を囲む「ランチ会」を設けて本音を聞き出すなど工夫を凝らしたことによって、「社員の生きた声」を聞くことができたという。

そのような中でやはり組織の空気を決定づけるのはトップダウンが大きな鍵だという気付きがあり、ボードメンバーが2日間にわたって研修を受講することとなった。トップ層が率先してダイバーシティと向き合う姿勢を見せたことは、社員に対して何よりのメッセージとなった。「上層部が本気で取り組んでいる」という事実が、職場の心理的なハードルを下げ、改革を受け入れるきっかけとなったのだ。 

2024年には「1on1」面談制度を刷新した。「本当に相談したい話ができていない」との声を受け、面談後に受ける側の満足度や実感をフィードバックする仕組みを導入し、制度の形骸化を防いだ。 

また、同社では、自身のキャリアプランに合わせて職種を選択できる「職群転換制度」も整備。本制度を利用しての、一般職(専任職)から総合職への転換によるキャリアアップが定着している。一方で、責任範囲を限定できる専任職へ転換する「キャリアの再設計」も認められている。

大山氏は、「一律のキャリアパスを押し付けるのではなく、総合職への挑戦も、専任職としての専門追求もどちらも価値ある選択。一人一人の志向に寄り添い多角的な支援を続けていきたい」と語った。

中小企業が「女性活躍の推進」に取り組むべき理由。社会課題から経営戦略へ、現場が育む “風土づくり”オザックス ロジスティクス本部 副本部長 大山朱美

可視化と発信が、既存の制度を変えるきっかけに

同プロジェクトの活動は、既存の制度を変えるきっかけにもなった。具体的には、育児や介護といったライフイベントを含む、社員一人一人の個別の事情に柔軟に対応できるように、法制度にのっとるだけでなく、自社の現実に即した制度拡充へとかじを切ったのだ。育児短時間勤務は、3歳までから小学校入学までに延長。コロナ禍を機に、在宅勤務や時差出勤のルール化を進め、2025年には「時間単位の年次有給休暇」もスタート。突発的な家庭の事情にも柔軟に対応でき、社員から好評を得ている。 

さらに、メルマガを通じて男性の育児休業について訴求し、育児休業取得者のインタビューや介護しながらの新しい働き方の事例を社内に発信。特に男性の育児休業については「身近な社員が取得している」という事実の共有が、「自分も取ろう」という意識の変化へとつながった。実際、男性の育児休業期間は、かつては1〜2日が普通だったが、現在では数週間から数カ月単位で取得する従業員が増加している。

これらの制度を利用していく上でオザックスが大切にするのが、職場内の信頼関係だ。大山氏は「制度を利用し、復職する際には、周囲の協力が不可欠です。しかし、その協力は、日頃の業務で積み上げた誠実さと責任感がなければ得られません。自らの役割を全うしているからこそ、送り出す側も心から背中を押し、戻る場所を温かく守ることができるのです」と語る。

同社の育休復職率がほぼ100%である点が、日頃から築かれた信頼関係を裏付けているといえる。ロールモデルとなる先輩たちが身近にいることで、「次は自分が支える番」という意識のリレーが、職場の文化として根付いているのだ。

「女性活躍」から一歩進み、オザックスが目指すのは「全員が活躍できる職場」だ。「外国籍の方や定年後再雇用の方、障がい者の方も働いていますが、多様性こそが当社の強みです。女性だけではなく、全員が働きやすい環境をいかに整えるかが、一番大切なことだと考えています」(伊藤氏)。 

女性活躍を推進したいと考えてはいるが、なかなか実行に移せない企業も多いはずだ。伊藤氏に問うと、「最初は手探りで、何から手を付けたらいいのか分からない状態でした」と笑う。しかし、認証取得などの目標を定めたことが、結果的に制度や意識を変える推進力になったという。「まずは一歩踏み出してみること。そうすれば、少しずつでも、組織は良い方向へ変わっていくはずです」。 

オザックス株式会社
設立:1920年9月(創業1910年9月)
事業内容:
生活産業製品の生産・加工・販売、合成樹脂原料の販売/洋紙・板紙・紙二次製品およびパルプの販売/食品の販売、上記に関する輸出入 
https://www.ozax.co.jp/index.html

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制度改正や社会的要請の高まりの中、中小企業も女性活躍の推進に向き合うことが求められている。女性活躍の推進は、従業員にとっても柔軟な働き方の呼び水となり、結果的に“全員が働きやすい職場づくり”へと必ず波及する。2社の中小企業の事例から見えてくるのは、現場と地続きの「風土づくり」と、持続可能な仕組みの設計。地道な取り組みの積み重ねこそが、中小企業の未来を変えていく。 

 

企業と働く女性のキャリアパートナーシップ支援事業事務局 
メールアドレス:jyosei-carrier@benesse-style-care.co.jp 
TEL:03-6735-3213
*本事業は、株式会社ベネッセスタイルケアが東京都より受託し運営しています。

 

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