「素人の視点」がもたらした変革

──2025年10月に発表された米国テーマエンターテイメント協会の調査では、24年の入場者数は約1600万人で世界3位、アジアでは3年連続1位と絶好調ですね。

村山 「さらなる高みを目指そう」と従業員に呼び掛けたのですが、大いに盛り上がりました。人生でこんな機会はなかなかありませんよね。現在、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)では約1万5000人の従業員がものすごくエキサイトしています。

──村山さんは生え抜き社長としてUSJの歴史をつぶさに目撃してこられました。改めてこの25年間を振り返っていかがですか。

「NO LIMIT!」のスピリットで限界を突破せよ!ユニバーサル・スタジオ・ジャパン25周年への挑戦ユー・エス・ジェイ
社長
村山 卓

村山 私はUSJ開業前の2000年に入社し、1年目は米国のユニバーサル・スタジオ・フロリダで研修を受けました。本場のオペレーションをみっちり学び、ハリウッド映画の世界を日本に直輸入した画期的なパークの誕生に立ち会えた貴重な経験は、今も大きな財産です。

しかし、パークは間もなく課題を抱えます。開業効果が一巡すると入場者数が伸び悩みました。そもそもUSJは大阪市と民間企業が出資する第三セクターとして発足しました。「官民協働で大阪を国際集客都市へ飛躍させよう」という大きな使命はあったものの、顧客ニーズの把握や、向かうべき方向性がやや曖昧になっていることは現場でも感じていました。

そんな中04年、新たに米国から来て就任した新社長の下、明確なメッセージが打ち出されるようになりました。これまでテーマパーク経営に深く関わってきた社長の下で取り組みを進めることで、共に盛り上げたいとワクワクしたことを覚えています。

──ご自身はその後、どのような仕事をされてきたのでしょうか。

村山 08年に社長の指名でインバウンド担当になりました。当時の所属は人事部門で、全くの畑違いでしたが、タイ、台湾、韓国の旅行会社やエアラインを訪問してヒアリングを繰り返し、データを細かく分析していきました。

素人だったのが逆に良かったのかもしれません。業界の常識にとらわれず、「お客さまに喜ばれる」という本質に向かって変革を進め、海外のお客さまを呼び込む土台をつくることができました。以降、マーケティング全般に広く関わるようになっていきます。

逆境で輝いたテーマパークの存在意義

──10年代には大きな成長を成し遂げて注目されました。

村山 新キャラクターやアトラクションを次々に投入した時期ですね。特に14年にオープンした「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」は大きな話題を呼びました。ただし、本当に大事なのはその後です。『貞観政要』にある唐の太宗が説いた言葉「創業は易く、守成は難し」のように、何事も始めるより続ける方が難しい。USJが本当に「守成」にかじを切れたのは、開業15周年を迎えた16年ごろだと思います。

──16年には「RE-BOOOOOOOORN(リ・ボーン)!さあ、やり過ぎよう、生き返ろう。」という、ユニークなテーマを大々的に掲げています。

村山 このテーマは、自らのアイデンティティを問い直すことで生まれたものです。USJらしさについてリサーチすると、必ず「元気」「刺激」「興奮」といったキーワードが出てきます。単に楽しいだけじゃなく、突き抜けるような刺激で、自分の殻を破って生まれ変われる──。USJの存在価値を改めて言語化したことが、20周年(21年)に向かう原動力になりました。

──しかし、20周年を迎える直前にコロナ禍という試練が訪れます。

村山 不要不急の外出自粛が広がり、USJも20年2月から臨時休業に入りました。つらい時期でしたが、逆境だからこそ自分たちの使命を考え抜くことができました。若いクルーからもさまざまなアイデアが出て、子どもたちが家で楽しめる動画作りや、医療従事者の方々への感謝のメッセージの発信といった活動も生まれています。

同じ時期に「遊園地・テーマパークにおける新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」の策定にも関わり、夜遅くまで議論を重ねて細かく作り込んでいきました。

緊急事態宣言の解除を受け、20年6月にいち早く営業を再開したのも大きなチャレンジでした。感染対策に最善を尽くしたとはいえ、不安や葛藤も大きかった。しかし、ゲートを開けた瞬間、ネガティブな気持ちは吹っ飛びました。待ちわびたゲストの方々が涙を流して喜ぶ姿がそこにあったからです。「社会を“超元気”にする」というUSJの存在意義は、コロナ禍があったからこそ、より輝くようになったと思います。

エンタメの力で日本を「超元気」に

──21年には新エリア「スーパー・ニンテンドー・ワールド」がオープンし、22年には「超エンターテイニングな創造力で、人と社会に“目覚め”を。」というコーポレート・ステートメントも策定されています。このステートメントをどのように具現化していきますか。

村山 ブランドスローガンとして掲げている「NO LIMIT!」の精神を、「パーク運営」「CSR活動」「ゲストを迎えるクルー」の三つの軸で徹底的に浸透させています。

まず、「パーク運営」です。現代社会では、知らず知らずのうちに「○○らしくあるべき」という、そのような無言のプレッシャーを心にためがちではないでしょうか。そんなストレスから自由になれる場所として、USJは入場ゲートをくぐった瞬間から目の覚めるような刺激があふれています。そして、その突き抜けるような刺激にまみれ「自分らしく思うように楽しみ、ありのままで過ごしてほしい」と思っております。

「CSR活動」では、「LOVE HAS NO LIMIT」を合言葉にさまざまな取り組みを続けてきました。特に力を入れているのが、未来ある子どもや若者を笑顔にする活動です。とはいえ、CSRは決して一方通行の活動ではありません。

個人的に忘れられないのが、視覚支援学校にショーをお届けしたときのこと。音楽が始まった瞬間、全盲の少年がすくっと立ち上がり、キャラクターにハグをして喜びを表現してくれたのです。エンターテインメントのパワーを目の当たりにして深く感動しました。人は自分の存在意義を意識した瞬間に覚醒します。社会を軸としながらも、私たち自身の覚醒のためにも、CSR活動を非常に大切にしています。

最後が「ゲストを迎えるクルー」です。私たちは、テーマパークの一番のアトラクションはクルーだと考えています。「NO LIMIT!」の精神で、自分に限界を設定せずに、昨日の自分を超えていこう、という姿勢がエンターテインメントの創造につながります。そして、クルー一人一人が「USJは自分のパークだ」というオーナーシップとプライドを持ってこそ、ゲストと心が通い合う特別な瞬間「マジカルモーメント」が生まれるのです。

また、先日閉幕した大阪・関西万博で活躍した人材も100人以上を採用しました。関西に愛着を持つ優秀な方々と共に、さらにパークを盛り上げていきます。

──万博レガシーの継承にもつながる試みですね。

村山 大阪のベイエリアは、かつては重工業で栄えた場所です。それが今ではUSJを目指して海外から観光客が訪れ、25年は大阪・関西万博で大いににぎわい、30年にはIR(統合型リゾート)の開業も予定されています。観光産業の一大拠点に変わろうとしているのです。

この流れを加速するには、観光人材の育成が大きな課題です。私たちも22年から、大阪公立大学で「USJ式観光マーケティング学」という講座を担当しています。観光学はデータサイエンス、心理学、経営学、工学などが融合した学際的かつ奥の深い学問領域とあって、学生からも非常に好評です。これを発展させて「観光を学ぶなら大阪へ」という認知にもつなげ、大阪を世界中から観光人材が集まる場所にしていきたいと思っています。

「NO LIMIT!」のスピリットで限界を突破せよ!ユニバーサル・スタジオ・ジャパン25周年への挑戦写真1 大阪公立大学で開講されている「USJ式観光マーケティング学」の講義風景

──東京一極集中への挑戦でもありますね。

村山 まさに、日本の成長は地方からけん引しなくてはいけません。歴史を振り返れば、明治以降の日本の近代化も、幕藩体制で蓄積された地域の個性や底力が原動力になっています。私たちUSJも大阪におけるモデルケースになりたいと考えていますし、未来に向け進化を後押しできるスパイスのような存在になりたいと思います。

大阪はチャレンジスピリットあふれる活力旺盛な都市です。日本を代表する大企業にも大阪発の企業がたくさんありますし、京都、奈良、神戸といった個性豊かな都市が近接していて観光資源も極めて豊富です。USJが絶えず変化しながら成長できたのも、大阪という都市のDNAがあったからこそ。常にその大阪に恩返ししたいと思っています。

──その大阪で、26年にUSJ開業25周年を迎えます。25周年のテーマに「Discover U!!!」を掲げておられますが、どのような思いが込められているのでしょうか。また、どのような一年になりそうですか。

村山 「Discover U!!!」をテーマに、祝祭感たっぷりの超刺激的なエンターテインメントを準備しています。この「U」には二つの意味をこめており、一つはゲスト自身の「YOU」、一人一人に想像を超えた“知らないジブン”にパークで出会って、自分らしく楽しんでほしいという願いです。もう一つは、USJの「U」。パークの25年の歩みを振り返り、エンターテインメントの力を再発見してほしいという思いです。そのために、われわれは常に挑戦していきたいし、25年のその思いの先に世界最高の風景が見えてくると確信しています。

「NO LIMIT!」のスピリットで限界を突破せよ!ユニバーサル・スタジオ・ジャパン25周年への挑戦写真2 開業25周年イベントのキックオフとして2025年11月には「御堂筋ランウェイ2025」に参加
●問い合わせ先
合同会社ユー・エス・ジェイ
〒554-0031 大阪府大阪市此花区桜島2-1-33
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