スタートアップがリスクを取らずして誰が取るんだ

小林:ある経営者が言ってたんやけど、「経営者はどのくらいで賽を振るべきか」という話。その方は「51:49だったら振るべきだ」と言っている。賽の振り方って、経営者の癖だと思うんですよ。これを100にしないと触れないって言うと、それ、どんだけ望み高いねんっていう。

朝倉:ものすごい盤石で安定性のある会社がリスクに対して過敏になるっていうのは、わかりますよ。だけど、マザーズに上がったばかりで「小型株」として取り扱われるくらいの会社の場合、言ってみれば、非公開のスタートアップと同じで世の中全体から見たら社会実験に近いわけですよ。そんな会社がリスク取らないで、一体誰が取るんだと思う。
あと、ほっといたら死ぬような状況で、リスク取らないなんて、存在する意味がないでしょう。何も挑戦しないんだったら、さっさと解散して清算価値を株主に全部還元しろよって話ですから。

村上:さっきのリスクの取り方でひとつ思うのは、日本の企業は、どうしても末端の事業部レベルでも想定される全てのリスクをヘッジさせようとするということです。
リスクというのは、組織の階層ごとに検討すべきものがあります。こうしたリスクは、各階層で100%ヘッジするのが適切とは限りません。階層ごとにどんなリスクがあるのかを把握したうえで、コーポレートの財務が全社としてとれるリスクなのかを評価し、案件の是非についての最終的な判断を取締役会で行うべきはずです。ところが日本では、階層ごとに全会一致を求める傾向がある。
そうなってしまうと、起案された案件がまず部署レベルで全会一致で決議されなくてはならないし、その先のちょっと大きな分科会レベルや、さらにその上の執行役員レベルでも全会一致を求められる。その上で、最終的に取締役会でも全会一致となると、結果として、全ての階層で100点に近い案件しかできなくなってしまうと思います。

朝倉:トーナメント戦ですね。誰も勝者が残らなさそうやけど。

村上:だから、ある階層では60点、その上の階層でも60点、取締役レベルで見ても60点なんだけど、「これ当たったらめちゃめちゃ大きいな。リスクの額は部署単位で見たら大きいけど、全社レベルで見たら小さいし、当たったら大きいねんからやろう」といった案件は上がってこなくなる。

朝倉:成功確率だけじゃなくて、上手くいったときのリターンも含めて、期待値がどうなっているのかという観点が必要なんでしょうね。期待値が高いのであれば、成功確率が低くてもそこでリスクを取るべきやし。
逆も然りで、成功確度が高い案件だったとしても、リターンが見合わないのであればやる意味がない。この点ではより投資家的な視点が必要なんでしょうね。投資家も経営者も、調達した資金をいかに有効活用して、資金の出し手の期待値以上のリターンを出すことを目指すという点においては、究極的には同じ活動をしているのですから。